最近話題の「メディカルダイエット」、別名「医療ダイエット」とはどのようなものなのでしょうか?
使用している薬、安全性、副作用などに関して、社会的な動きや法律なども交えて薬剤師がまとめてみました。
薬剤師としての本音も交えてお伝えできたらと思います。
- メディカルダイエットとは
- メディカルダイエットは安全なのかどうか
- どのようなところで受けられるのか
- 広告の法律的な問題とは
- メディカルダイエットの社会的な問題とは
メディカルダイエット、医療ダイエットとは?
メディカルダイエットと医療ダイエットは同じ意味で使われている言葉です。
広い意味では、痩身マシンやカウンセリングを中心にしたものも含まれていますが、今回は薬に注目してまとめてみました。
メディカルダイエットはどこで受けることが出来るのか
オンライン診療と、対面診療の両方で処方を受けることが出来ます。
オンライン診療のメリットとデメリット
オンライン診療のみで完結するメリットは、値段の安さと手軽さです。
薬は家まで宅配してくれるところが多いです。
デメリットは、
- 血液検査がないため、医師に伝わる身体情報が不十分であること
- 問診や併用薬チェック、薬の説明などが不十分なままスタートする可能性があること
- 副作用が出た際に、医師が対面で対応してくれない場合があること(実店舗を持たない場合や、遠方であるケースなど)
対面診療のメリットとデメリット
対面診療では、美容系の皮膚科クリニック、内分泌内科(糖尿病内科)や、一般内科をもつクリニックでダイエットサポートを積極的に行っているクリニックで受けることが出来ます。
メリットとしては、
- 血液検査、問診、併用薬など十分な情報が医師に伝わる為、しっかり診察してもらえること
- 万が一メディカルダイエットで副作用などのトラブルがあった場合、主治医の適切なアドバイスや指示がいただけること
- オンライン診療に比べて費用が高め
- 自分の都合の良い時に受診できないことがある
- 自宅から通える範囲に対応できるクリニックがない場合がある
都会ですら対面でダイエットサポートしてくれるクリニックは限られています。
田舎だとなおさら、ダイエットに対応しているクリニックは存在しなかったりします。
メディカルダイエットにはどのような薬剤が使用されているの?どのような効果があるの?
調べた範囲では、以下のような薬剤が使用されていました。
薬剤の種類 | 薬剤名 |
GLP-1受容体作動薬 | 飲み薬:リベルサス 注射薬:サクセンダ、オゼンピック、ビクトーザ |
SGLT2阻害薬 | スーグラ、ルセフィ、カナグル、フォシーガ、ジャディアンス |
α-グルコシダ―ゼ阻害剤 | アカルボース |
その他薬剤 | マジンドール |
漢方薬 | 防風通聖散、防已黄耆湯、大柴胡湯 |
ビタミン剤 | シナール/ビタノイリン/ハイチオール |
サプリメント | BBX |
そのため、自由診療であり、安全性に関しても十分な試験をおこなっていない点は注意したほうがよいでしょう。
GLP-1受容体作動薬
国内では2型糖尿病でのみ適応が通っています。
GLP-1とはどのような物質?
GLP-1は、食事をとって血糖値が上がると、小腸にあるL細胞から分泌されるホルモンのひとつです。
すい臓のβ細胞表面にあるGLP-1の鍵穴 (受容体) に作用し、β細胞内からインスリンを分泌させます。
GLP-1は、血糖値が高い場合にのみインスリンを分泌させる特徴があります。
GLP-1作動薬の種類と違い
効果:血糖値を下げる効果に加え、食欲抑制作用や摂取した食物の胃からの排出させる効果があります。
副作用:代表的なものは、消化器症状です。すべてのGLP-1受容体作動薬に共通です。
用量を少なめに始める事で、ある程度抑えられます。また、初期や薬剤増量時に起きやすく、1週間程度で慣れることが多い副作用です。
しかし人によっては消化器症状がおさまらない場合もありますので、注意が必要です。
リベルサス錠
朝起きてすぐ、空腹時に飲む必要があります。
食事の影響を受けやすく、飲み方を誤ると効果が0%になってしまいます。
オゼンピック注
注射薬です。1週間に1回投与という特徴のある薬です。
リベルサス錠と成分は同じです。
病院で糖尿病を対象に処方される場合は、病院で必ず注射の仕方の指導が行われます。
ビクトーザ注
注射薬です。連日使用する必要があります。
オゼンピック注よりも国内での販売歴が長いため、日本人でのデータが蓄積されています。
病院で糖尿病を対象に処方される場合は、病院で必ず注射の仕方の指導が行われます。
サクセンダ注
ビクトーザ注と同じ成分の薬です。
しかし日本国内では販売されていないため、使用されているものは海外からの輸入品であると考えられます。
同成分のウゴービ注という薬が、肥満症治療薬として2024.2.22に国内で販売が開始しました。↓
SGLT2阻害薬
国内では2型糖尿病、一部1型糖尿病、心不全でのみ適応が通っています。
SGLT-2とはどのような物質?
血液中に含まれるブドウ糖は、腎臓の中の糸球体で血液から原尿(尿のもととなる液)の中に出た後、尿細管で取り込まれて血液にもどります。
このブドウ糖の取り込みで働いているのがSGLT2というたんぱく質(運び屋であり、トランスポーターと言います)です。
この結果、血糖が下がります。糖とともに水分も排泄されるため、尿の量が増えます。
スーグラ、ルセフィ、カナグル、フォシーガ、ジャディアンス
作用時間、適応に色々違いがあるのですが、作用自体にはそれほど大きな違いはありません。
効果:糖をそのまま尿で出すことで、血糖値を下げる効果が報告されています。
副作用:利尿作用があるため、脱水に注意が必要です。
また、糖が尿道を通る為、女性の方は膀胱炎になりやすくなります。
脱水も膀胱炎も水分を多めにとることで防ぐことができるため、多めに水分を取りましょう。
α-グルコシダ―ゼ阻害剤
国内ではⅠ型糖尿病、Ⅱ型糖尿病のみ適応が通っています。
α-グルコシダ―ゼとはどのような物質?
食事に含まれるでんぷんなどの炭水化物は、そのままの状態では消化管から吸収できないため、唾液や消化管の中の酵素の働きで、ブドウ糖に分解されて吸収されます。
α-グルコシダーゼは、この時に働く酵素の一つです。
食事の直前に服用することで効果があらわれます。
マジンドール(サノレックス)
国内では高度肥満症(肥満度が+70%以上又はBMIが35以上)における食事療法及び運動療法の補助にのみ適応が通っています。
食欲中枢に対する作用だけでなく、副作用も強めです。
消化器症状のみならず、依存性が出る場合もあります。
ダイエット目的で安易に使用する薬としては、あまりにもリスクが大きいのでお勧めできません。
本当に必要だと医師が判断した、高度肥満の場合にのみ使用するべき薬剤だと思います。
漢方薬
市販薬として手軽に手に入れることができます。
細かい違いはあるのですが、どれも水分過多で、浮腫みによる肥満傾向のある方を対象としています。
適応に「肥満」が通っている薬です。
メディカルダイエットで使用される薬の中では、適応に「肥満」が含まれており、漢方のため、比較的効果や副作用がマイルドである点が安心です。
防風通聖散
食欲が旺盛なのに便秘美味な方、熱をため込みやすい方に最も効果があります。
利尿、血流改善、発汗作用、下剤作用ある漢方が配合されています。
下剤作用のある漢方が含まれている為、身体が冷えやすい方が服用すると間違いなく具合が悪くなる可能性があります。
防風通聖散に関する記事はこちら↓
防已黄耆湯
代謝効率をあげる漢方と利尿作用のある漢方が配合されています。
色白でぽっちゃり、汗をかきやすいのに浮腫みがとれず、だるさが取れない方におすすめです。
防己黄耆湯に関する記事はこちら↓
五苓散
体質はそれほど関係なく、のどがやたらと渇き、冷たい水を欲する尿量の少ないタイプにおすすめです!
水分代謝の改善と、血流改善作用のある生薬が配合されています。
五苓散に関する記事はこちら↓
ビタミン剤
シナール/ビタノイリン/ハイチオール
どれも「肥満」としての適応はとおっていませんが、市販でも手軽に手に入る薬です。
ダイエットとして使用したい場合は、体調改善や、合わせて肌の質の改善などを目的に取り入れるのがオススメです。
サプリメント
BBX
BBXはBrain Boosting Complexの略で、タイのFDA(食品医薬品承認局)が承認した食欲抑制サプリメントです。
国内では承認が降りていないこと、サプリメントの為、医薬品ほどの効果は期待できないなどの注意点があります。
費用はどのくらいになるか
ダイエット目的での医薬品の使用は、自由診療になっているため、各医療機関が良識の範囲内で自由に値段を設定できるようになっています。
1万~2万/月が目安のようですが、医療機関に直接確認していただいた方がいいでしょう。
メディカルダイエットは本当に安全?副作用はない?過大広告に注意を!
どれもそれぞれ一長一短あり、魔法のやせ薬ではないことを理解するべきでしょう。
特にどこに危険性を感じているか
メディカルダイエットで使用される薬は糖尿病治療で用いられる薬です。
本来は血液検査、身体検査、問診、併用薬などをよく確認したうえで、医師が必要であると判断した場合に処方されます。
注射薬である場合は、注射薬の打ち方、注意点などの指導を、看護師から理解できるまで受けます。
注射薬の場合は、空うち、針の付け方、打ち方、保管方法などの指導を徹底して受けないと、注射部位が腫れたり、感染が起きるリスクがあがります。
ネット上でもそういったトラブル報告はたくさんあがっていたね。
また、処方された後も必ず1ヶ月に1回、副作用、効果などのチェックを受けます。
GLP-1受容体作動薬は、必ず少量から始め、ゆっくりと用量を上げるべき薬なのですが、ネット上でそのような情報をきちんと書いているものはほとんどなく、高用量のGLP-1受容体作動薬が初回から手に入るようになっている状態に違和感を感じました。
GLP-1受容体作動薬は本当に手軽に痩せれる薬なのか?
ネット広告上では頻繁に「手軽に痩せれる、リバウンドしない」という事が言われていますが、この情報に関してかなり違和感があります。
糖尿病の治療薬としてのGLP-1受容体作動薬の使用状況をお伝えすると…
- 糖尿病治療であっても、必ず食事療法、運動療法の指導はセットで行っている
- 適切な食事療法、運動療法と併用しなければ、薬をやめるとリバウンドする
- リベルサス錠を例にあげると、2型糖尿病を持つ平均89㎏くらいの体重の人で約半年で2㎏から4㎏前後体重を落とせるという結果である
3の引用資料として、リベルサス錠のインタビューフォームの「単独療法:国際共同第III相試験(NN9924-4233試験)情報」を以下に掲載します。
本剤3mg群で-1.5±3.3kg(ベースラインの平均:86.9kg)、本剤7mg群で-2.6±4.1kg(ベースラインの平均:89.0kg)、本剤14mg群で4.0±4.2kg(ベースラインの平均:88.1kg)及びプラセボ群で-1.4±3.5kg(ベースラインの平均:88.6kg)
リベルサス インタビューフォーム
この結果が多いと感じるか、少ないと感じるか?ですが、この調子でずっと痩せ続けるわけではなく、頭打ちになる事も報告されています
体重が50㎏の人だと、もちろんここまで下がりません。
副作用の消化器症状だけ出てくる可能性もあります。
メディカルダイエットが気になる方に!医療機関を選ぶ時のポイントは?
無責任なクリニックを見抜き、選ばないようにすることが大切だと思います。
以下の点に関しては、契約前に必ずクリニックに対して確認した方がよいでしょう。
- 都合の良い事ばかりを記載していないか
- 薬の副作用に関してもしっかり記載してあるか
- クリニックの広告は過大広告、違法広告になっていないか(痩せるなどの身体の変化、何キロ痩せるなどとはっきり書いてあるのは違法、過大広告です)
- 費用は他の医療機関に比べて適正か
- 途中で解約した場合に返金があるか
- 副作用が起きた場合に医師が対応してくれるか
メディカルダイエットで副作用が起きた場合、補償は受けられるのか?
医師賠償責任保険で補償される場合もありますが、十分な補償は難しいでしょうし、無責任なクリニックの場合は無保障になる可能性もあります。
ネット情報をみているとそのようなトラブルが相次いでいるようで、注意が必要です。
メディカルダイエット、その広告は本当に法律上問題ない?
未承認医薬品を宣伝することは、医療法で基本的には禁止されています。
- 未承認薬であることをきちんと明記してあるか
- 入手経路の明示
- 国内の承認医薬品等の有無の明示
- 諸外国における安全性等に係る情報の明示
この限定解除により、治療に用いる医薬品の名前を広告することは可能になりました。
しかし、薬機法により「体の変化」や、効果・効能表現を使用した広告を出して販売することは禁止されています。
また、景気法により、誇大広告(15㎏減など、実態とはことなる広告)は禁止されています。
薬機法、医療法、景気法のなかでも、広告に関する法律はかなり動いている法律のようなので、抵触しないように注意が必要です。
同業者からの摘発がほとんどのようです。
「痩せます」、「食欲を抑えます」は薬機法上、表現としてアウト?
薬機法もチェックする人によって結果が変わるようなので、絶対これが正しいとは言えません。
適応外使用や未承認薬の宣伝でこの文言を使っている場合は、高確率で薬機法上アウトであると思います。
法的な問題を無視し、アウト表現を記載しまくっているクリニックは無責任なクリニックである可能性が高いです。
どんなに値段が安くても、他のクリニックを検討した方がよいでしょう。
国民生活センターからの注意喚起がでています
国民生活センターからは以下の注意喚起が出ています↓
メディカルダイエットに関して勉強しよう!おすすめの書籍
本気で痩せたい人のためのメディカルダイエット
★★★★
メディカルダイエットのメリット、デメリット、問題点、実際にダイエットサポートを行っている医療現場の実態を知りたくて読んでみました。
ダイエットと聞くと、美容目的とばかり思ってしまいます。
しかし、この本をきっかけに、糖尿病一歩手前の方や、精神的な病気などの影響で食欲が抑えられなくて苦しんでいる方、もともと太りやすく、どんなにダイエットを頑張ってみても痩せられなくて悩んでいる方の存在に気が付きました。
まとめ
ダイエットの基本は運動、食事改善である事は、今後も変わらないと思います。
ただ、食生活の欧米化に伴い、肥満の方が増加している事、「健康である」と感じる状態は人それぞれであるため、ダイエットの需要は減ることはないと思います。
メディカルダイエットに対して否定的なご意見も数多くありますが、世界的にダイエット目的の薬の開発、使用が広まっており、この流れを完全に止めるのは難しいのではないでしょうか?
メディカルダイエットは従来のダイエットをサポートする形で、浸透していくのではないかと考えています。
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