トレーシングレポート(薬剤情報提供書)に加算がつくようになって数年が経ちました。
トレーシングレポートを活用している薬局はどのくらいあるでしょうか?
あまり使用していない薬局も多いかもしれません。
この記事ではトレーシングレポートとはどういうものなのか、トレーシングレポートの実例を併せて解説しました!
- トレーシングレポート(薬剤情報提供書)とは?
- どのくらい加算はとれるのか
- トレーシングレポートを書く際の注意点
- トレーシングレポートのメリット、デメリット
- トレーシングレポートの実例
トレーシングレポート(服薬情報提供書)とは?
トレーシングレポート(薬剤情報提供書)はモニタリングレポートとよばれていることもあります。
保険薬局で患者から聞き取ったアドヒアランスや副作用に関する情報など、即時性は低いものの医師に情報提供すべきと考えられる事項を伝えるためのレポートのことです。
トレーシングレポートの目的
薬局薬剤師が患者さんから得た服用状況や服用期間中の副作用を含む体調変化などの情報を、処方医にフィードバックするために作成し、より良い医療の提供、残薬調整や処方提案などに繋げていくために行います。
トレーシングレポートを提出すると加算はとれる?
トレーシングレポート(服薬情報提供書) は、診療報酬上、「服薬情報等提供料」として算定することができます。
医療機関からの情報提供の求めがあった場合にのみ算定できていたものが、2016年には薬剤師がその必要性を認めた場合でも算定されるようになり、15点から20点に増えました。
2018年の改定で 、医療機関の求めで情報提供した場合は30点、患者及び家族等からの求めまたは薬剤師が必要性を認めた場合を20点と、細分化と増額が実現しました(ただし、必ず患者の同意が必要です)。
2020年には地域指定体制加算に実績要件が追加されるなど 、トレーシングレポートの有効性が認められた結果といえ、さらに取り組みが広がっています。
2024年には以下の要件変更がありました。
- リフィル処方箋調剤に伴う情報提供が追加になった
- 情報提供先として介護支援専門員や歯科が明記された
- 服薬情報等提供料2の要件が3つにパターン分けされ、いずれの場合も文書による情報提供が必要になった(「患者またはその家族等」への情報提供のみでは算定不可に)
服薬情報提供料1 | 服薬情報提供料2 | |
情報提供先 | 患者が受診している保険医療機関(歯科を含む) | ・処方箋を発行した保険医療機関 ・リフィル処方箋を発行した処方医 ・介護支援専門員 |
点数 | 30点 | 20点 |
算定の制限 | 月に1回 | 月に1回 |
患者の同意 | 必須 |
※1:かかりつけ薬剤師指導料等を算定している場合は、服薬情報等提供料1,2に係る業務を行うことを前提としているため、服薬情報等提供料は算定できません。上記以外にも例外条件があります。
さらに詳しい情報を知りたい人はこちらの資料を参考にしてください。↓
「同一月内における服薬情報等提供料及び在宅患者訪問薬剤管理指導料と他の薬学管理料の算定 の可否」
参考資料
- 厚生労働省_2024年3月5日「令和6年度診療報酬改定の概要【調剤】」
- 別添3「調剤報酬点数表に関する事項」
- 別紙1-3「調剤報酬点数表」
トレーシングレポートの注意点(以下のものは疑義紹介を行いましょう)
- 緊急性の高いもの
- 検査値照会(腎機能など、薬の用量確認等で情報がいま必要だと判断されるもの)
- 治療方針確認(処方内容と患者さんの話が食い違うものなど)
トレーシングレポートを書く際に必ず書かないといけないこと
トレーシングレポートを書く際に書き忘れてはならないチェックリストをまとめました!
- いつ
- 誰から(本人、家族、施設スタッフ等)
- どこで(薬局、服薬フォローの電話で等)
- 具体的な内容(残薬、副作用、生活の変化等々)
- 情報を得た時の対応
- 情報提供の理由
- 薬剤師からの提案
長文になると医師から見てもらえる可能性が下がるので、なるべく簡潔に書くことを心がけましょう。
実際にどのような形式(フォーマット)でトレーシングレポートを書けばいい?
厚生労働省が提示しているトレーシングレポートのフォーマットはこちら↓
医療機関によっては指定のフォーマットがある場合はあります。
指摘された場合は、次回以降その指定に従ってください。
1回目はフォーマットが違うと指摘はされますが、受け付けてくれるでしょう。
初回は厚生労働省のものや、電子薬歴にひな形がある場合はそれを使って問題ないと思います。
トレーシングレポートをおこなうメリット
- 診察までにトレーシングレポートを見ることにより、事前に患者さんがどのような状況なのか医師が把握しやすく、じっくりと考える時間がとれる
- 患者さんと医師とのコミュニュケーションで不足していた部分を補うことができる
- 口頭ではなく記録に残るため、医師の好きな時に振り返ってみることができる
- じっくりと書いたり調べたりする時間がある為、疑義紹介よりも様々な情報を医師に提供できる
疑義紹介は医師が処方を書いて終了したものに対して行うものです。
疑義紹介は、医師も禁忌や重複などよほど気になるケース以外取り合ってくれないケースが多いです。
薬剤師3.0-地域包括ケアを支える次世代型薬剤師-
著者の狭間研至先生は外科医でありながら、薬剤師の職能の向上に尽力してくれています。
現在は様々な薬学部で講演を行うだけでなく、一般社団法人 日本在宅薬学会 理事長としても活躍されています。
トレーシングレポートとはっきり記載はなかったと思いますが、類似の報告を有難いと思っているという意見なども載っています。
とても薬剤師に対しての熱い思いが伝わってくる本です。↓
トレーシングレポート(服薬情報提供書) のデメリットや問題点
私の薬局では積極的にトレーシングレポートを記載するようにしていますが、その際に感じている問題点に関して書き出してみます
- 内容によっては記載するのに時間がかかる
- 「患者及び家族等からの求めまたは薬剤師が必要性を認めた場合を20点」となっているが、加算をとるためには、料金の説明をしたうえで、患者の同意が必須であり、同意を得られないことが多い。
- 地域指定体制加算の要件になっているため、内容の薄いレポートが増えているらしい(日経DIで問題として取りあげられていました)
- だらだら内容が長くなっている人が多く、どうも一部医師からクレームが来ているらしい
- 見るか見ないかは医師に権限があり、返事も特に来ないため、そもそも見ているのか見ていないのかわからない。
医師に対して書く手紙なので、不正確な情報、失礼な書き方はしてはならないと思うあまり、とても時間がかかり、家に持ち帰って記載していることもあります。
トレーシングレポートが見にくいとのことで、薬剤部からある日突然指定のフォーマットになり、殆んど手書きで書けるところがなくなりました。
細分化されているので書きやすい反面、書きたいことが殆ど書けないデメリットもあります。
トレーシングレポートの扱いは各々の医療機関に任せられているため、医師のデスクに置くだけのところから、カルテに挟んで見やすく置いておくところまでさまざまです。
専門病院に転職してトレーシングレポートを受ける側になってからの記事はこちら↓
先日行ったトレーシングレポートの実例を紹介します
長くなってしまった例なので、あまりいい例ではないかもしれませんが、紹介します。
このトレーシングレポートは報告しなければならないという強い危機感を感じて書きました。
危機感を感じたポイントとしては↓
- 患者自身が高齢であまり自分の症状を上手に伝えられない状況
- 患者家族がお薬手帳を薬局では見せていたが、医療機関ではまったく見せていなかった。
- 類似の医療機関に2~3つかかっていた
- それぞれの医療機関から禁忌ではないが類似の薬が出ていた。
- ふらつきで転倒して整形外科に通っていた
当薬局は初めての利用で、これらの医療機関の薬はまったく出していなかったが…
お薬手帳を拝見して、まずはじめに、神経系の医療機関に一つではなくたくさん(3つ)かかっているな…と違和感を感じました。
投薬前は、医療機関同士がきちんと連携をとれているようであればそれも問題ないかなと思っていたのですが…
お薬手帳を一度も医療機関に出したことはありません。
薬局では毎回出してますが…
医療機関同士ははじめの紹介状の時以降はお互いに頻繁にやり取りしていないと考えられます。
毎回お薬手帳を医療機関にも出すように説明しました。
だからこの前●●病院で重複薬が出て薬局で疑義紹介になったんですね!
先生は何でも把握していると思っていたのでショックでした!
先生は全く処方内容を共有していない可能性がありますが、私の薬局で調剤している薬ではないため、どうしたらよいのか困ってしまいました。
次回きちんと自分で話を整理して先生に話せそうですか?
自信がありません。どうしたらいいでしょうか。
(これはこのままほっておけない。トレーシングレポートを出そう)
わかりました。こちらから先生方に情報をお手紙で送ります。
このような経緯でまったく調剤していない薬に関してトレーシングレポートを書くことになってしまい、結局3つの医療機関に同様の内容を送りました。
個人情報や医療機関などに関する情報は伏せさせていただいています。
PDFはこちら↓
こんな事例にも使用できるという参考として見てほしい
ただ、「どんな内容を送ったらいいのか」「医師に対してどんな感じで送ったらいいのか」「気になるけどこんなこと送ってもいいのかな」と不安に感じている人の参考に見ていただければいいと思っています。
トレーシングレポートは意外と自由に色々書けるし、報告に使用している
自分が薬剤師として引っかかったことは、どんどんトレーシングレポートで伝えたほうがよいと思います。
医師の診断に関することに触れる事は職域を犯す行為なので避けたいところですが、それ以外の薬の相互作用や副作用、より良い薬の提案がある場合は積極的に送るべきだと思います。
今回のように自分で調剤していない薬であっても、疑問や危機感を感じた場合は送っても問題ないと思います。(今回どの医療機関からもお叱りの電話は受けていません)
トレーシングレポートに対しての医師からの返答、即時の処方変更は期待しないこと
医師によっては丁寧に返答が来ることもありますが、8割方の医療機関からは返答がありません。
医師からの返答はないが読んでくれているのは感じる
- 患者さんの方から「先生から話があった、ありがとう」と言われること
- 何も言われないが1か月後に処方が変わること
- 何も言われないが3か月後に処方が変わること
は何回も経験しました。
医師も自分の処方には自信を持っていること、誰だかわからない薬剤師からきた提案をすぐには採用する気にならないことは当たり前だと思います。
まとめ
目に見えない医師に対して陰からサポートし、患者さんがより良い医療を手に入れるお手伝いをするつもりで積極的にトレーシングレポートを送ってほしいなと思っています。
ただ、その際に医師に「自分の方が正しい!」というような姿勢のトレーシングレポートを送らないように、処方変更を期待するトレーシングレポートを送らないように注意してください。
簡単!気軽に使えそうな実際のトレーシングレポート例はこちら
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