硝酸イソソルビドと一硝酸イソソルビドは名前がとてもよく似ています。
間違えてしまいそうになったこともあるのではないでしょうか?
実際に厚生労働省の「医療事故の再発・類似事例に係る注意喚起について」にも掲載されるほどの取り違えの多さです。
参考資料
- 医療事故の再発・類似事例に係る注意喚起について|厚生労働省
- 硝酸イソソルビドと一硝酸イソソルビドとは?
- 硝酸イソソルビドと一硝酸イソソルビドの違い(効果、作用機序、効果)
- 硝酸薬の使い分け
硝酸イソソルビドと一硝酸イソソルビドはどんな薬?
硝酸イソソルビドと一硝酸イソソルビドは、どちらも狭心症の治療に用いられる薬剤です。
その薬理作用や効果に違いはあまりなく、主に冠動脈を広げることで心臓への血流を改善し、心筋の負担を軽減します。
類似していますが、いくつかの微妙な違いがあります。
見ていきましょう!
硝酸イソソルビドの特徴
硝酸イソソルビドは、心筋への酸素供給を増やし心筋の負担を減少させることで、狭心症の治療に有効です。
この薬剤は、体内で一酸化窒素を放出し、それが血管の平滑筋に作用して血管を広げることにより、心臓への血液の流入量を減少させます。
適切な血流が心筋に届くようにすることで、痛みの発生を抑え、さらには予防する作用があります。
硝酸イソソルビドの利点は、効果が比較的速やかに現れることであり、特に発作時の救急治療薬としての価値があります。
剤型によって、発作コントロール(予防)、発作時のどちらにも使用されます。
具体的な商品としては以下のようなものがあります。
- ニトロールスプレー1.25mg(エーザイ)
- ニトロール錠5㎎
- ニトロールRカプセル20mg
- フランドル錠20mg(トーアエイヨー)
- フランドルテープ40mg(トーアエイヨー)
- 一硝酸イソソルビド錠10mg「NIG」
- 硝酸イソソルビド徐放カプセル20mg「S」
- 硝酸イソソルビド徐放錠20mg「サワイ」
- 硝酸イソソルビド徐放カプセル20mg「St」
- 硝酸イソソルビド注50mg/100mL「タカタ」
等
一硝酸イソソルビドの特徴
一方、一硝酸イソソルビドは特に冠動脈を広げる作用に優れ、心筋の血流を改善することで狭心症の症状を軽減します。
基本的な作用機序は硝酸イソソルビドと似ています。
すなわち、一酸化窒素を放出し、血管を拡張することによって、心筋への酸素供給を改善し、狭心症の治療や予防に利用されます。
しかし、一硝酸イソソルビドは、硝酸イソソルビドよりも肝臓での初回通過効果を受けにくく、消失半減期が長いことが特徴です。
このため、硝酸イソソルビドに比べ、肝機能の状態等生体側の要因による治療効果のばらつきが少なく、作用時間も長いため、製剤学的工夫をせずに持続的効果が期待できるとされています。
そのため、狭心症の予防薬としての利用が一般的で、定期的に服用することで、胸痛の発作を未然に防ぐことができます。
具体的には以下のような商品があります。
- アイトロール錠10mg/20mg
- 一硝酸イソソルビド錠10mg「サワイ」/一硝酸イソソルビド錠20mg「サワイ」
- 一硝酸イソソルビド錠10mg「トーワ」/一硝酸イソソルビド錠20mg「トーワ」
- 一硝酸イソソルビド錠10mg「日新」/一硝酸イソソルビド錠20mg「日新」
- 一硝酸イソソルビド錠10mg「NIG」/一硝酸イソソルビド錠20mg「NIG
硝酸イソソルビドと一硝酸イソソルビドのどちらにも共通する注意点
両薬剤とも副作用として頭痛が現れることがあり、これは血管の拡張作用によるものです。
以下の患者には投与ができません。
- 重篤な低血圧または心原性ショックのある患者
- 閉塞隅角緑内障の患者
- 頭部外傷または脳出血のある患者
- 高度な貧血のある患者
- 硝酸・亜硝酸エステル系薬剤に対し過敏症の既往歴のある患者
硝酸イソソルビドと一硝酸イソソルビドの構造と効果の違い
硝酸イソソルビドと一硝酸イソソルビドは構造も非常に似ていますが、微妙な違いによって作用に差が現れています。
これらの違いが、薬剤の溶解度や体内での吸収率、効果の発現に微妙な差をもたらします。
化学構造の違い
以下に硝酸イソソルビドと一硝酸イソソルビドの構造を掲載しました。
おそらく、このNO₂の有無によって、初回通過効果の有無や作用時間に差が出てきていると考えられます。
治療効果の違いは?
先述したように、硝酸イソソルビドと一硝酸イソソルビドはともに心臓の疾患治療に使用される薬剤ですが、その適用や作用時間には差があります。
では肝心の治療効果に関してはどうでしょうか?
アイトロール(一硝酸イソソルビド)のインタビューフォームでは以下のような記載があります。
狭心症患者を対象にアイトロール錠20mg 1 日2 回投与の効果を検討するため、フランドル (硝酸イソソルビド徐放錠) 20mg 1 日2 回投与を対照とする二重盲検群間比較試験を行った結果、アイトロール錠20mg はフランドルと同等であるという成績が得られた。[山田和生, 他:Geriat. Med., 23(8), p. 1421-1435(1985)]
アイトロール錠 インタビューフォーム
簡潔にいうと、同じ用量であれば効果はほぼ同等であるといえるでしょう。
参考資料
- アイトロール錠添付文書
- アイトロール錠インタビューフォーム
- フランドル錠添付文書
- 日本医薬品一般的名称(JAN)データベース
類似の硝酸薬との違いと使い分け
硝酸イソソルビドと一硝酸イソソルビドは作用時間の差や、発作時に利用できるかどうかなどの違いはあるものの、同じ用量であれば、ほぼ同じ治療効果であることがわかりました。
それではほかの硝酸薬との使い分けはどのようにおこなわれているのでしょうか?
類似薬としてはニトログリセリン(ミオコールスプレー、ニトロペン舌下錠、ニトロダームTTS)やニコランジル(シグマート等)があります。
硝酸薬の耐性をふせぐため
添付文書上にも記載があるように、硝酸薬は長期間使用していると耐性が現れることがあります。
本剤使用中に本剤又は他の硝酸・亜硝酸エステル系薬剤に対し、耐薬性を生じ、作用が減弱することがある。
フランドル錠添付文書
なお、類似化合物(ニトログリセリン)の経皮吸収型製剤での労作狭心症に対するコントロールされた外国の臨床試験成績によると、休薬時間を置くことにより、耐薬性が軽減できたとの報告がある。
そのため、この耐性をふせぐため、休薬期間を置くために硝酸薬をローテーションするケースがあります。
降圧効果の違いや、コントロール、発作時の目的による使い分け
2024年に日経メディカルが調査した結果によると、処方頻度のもっとも多い硝酸薬はニトログリセリン、次いで硝酸イソソルビド、ニトログリセリン貼付剤となっています。
使い慣れているからといった意見や、発作やコントロールなどの目的の違いによる選択、貼付剤は飲食のできない患者にも使いやすいからなどの意見がみられました。
ニトログリセリンは若干降圧作用が強い印象があるようで、血圧が低い人にはニコランジルや一硝酸イソソルビド、硝酸イソソルビドを選択するという意見がありました。
まとめ
この記事では硝酸イソソルビドと一硝酸イソソルビドの違いから硝酸薬の使い分けまでを解説しました。
硝酸イソソルビドと一硝酸イソソルビドは非常に名称が似ており、取り違えのヒヤリハットでは常連です。
とくに20mgはどちらの薬にも存在するため、取り違えにはより一層の注意が必要でしょう。
ニトロペン舌下錠に関してはこちら↓
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