先日メーカーによる勉強会を受けたため、その際に聞いた特徴と注意点(処方監査時のポイントなど)、実際の処方を受けてみて、どういった処方が出ているか等の情報をまとめました。
エンレスト錠はいつ発売になった?処方日数制限はあるか?
販売開始は2020年 8月で心不全で適応が通りました。その後2021年9月に高血圧で新たに適応の通った比較的新しい薬です。販売されてから1年以上経過しているため、処方日数制限はありません。
エンレスト錠の効果、副作用、特徴
エンレスト錠の効果
エンレスト錠はサクビトリルとバルサルタン(商品名:ディオバン)の複合体と考えていいようです。 バルサルタン (商品名:ディオバン) は使用実績が長いARBですのでご存知の方も多いと思います。
サクビトリルはNa利尿ペプチド(ANP、BNP)を亢進する働きをします。

注射薬で有名なハンプ(成分名:カルペリチド)と類似の作用がある為、飲みハンプという人もいるようです。(メーカーMRは因果関係はないと言っていましたが)
エンレスト錠のノバルティスファーマによる公式説明です↓
エンレスト錠は新しいクラスであるARNIに分類され、ネプリライシン(NEP)とレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)を同時に阻害する新規作用機序を有する薬剤です。
レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)を阻害することにより、アンジオテンシンII によって引き起こされる血管収縮、体液貯留、交感神経活性が抑制され、降圧効果を示します。
また、ネプリライシン(NEP)を阻害することで、生理活性を有するナトリウム利尿ペプチド(NP)の作用が増大し、血管拡張、利尿、尿中ナトリウム排泄、交感神経系抑制、心肥大抑制及び線維化抑制等の多面的な作用を示します。

エンレスト錠50㎎はバルサルタン(先発品名:ディオバン)何㎎に相当するか
エンレスト錠50㎎はバルサルタン錠25㎎相当と言われています。
エンレスト錠200㎎を服用した場合はバルサルタン100㎎相当になり、最高容量ではないですが、通常用量を超えてくるので高K血症や降圧作用によるふらつきに注意が必要です。
血圧は実際どのくらい下げるのか
かなり下げる(20mmHg前後)と言われているため、110mmHg 以上の血圧の人に使用することが推奨されています(メーカー情報)
高血圧の第一段階で使用可能か?
高血圧の第一段階から使用することは推奨されておらず、必ずARBもしくはACE阻害剤からの切り替えとなります。
しかしかなり高血圧が進行したケースでなくても低いステージから使用することが出来る為、今後第一選択として使用することが可能になる可能性があります。
利尿作用はどれくらいあるのか
メーカー側は利尿作用も多少あると説明していますが、実際に処方を出している医師からは利尿作用は初め以外はあまりないとの報告が上がってきているとのことです(メーカー情報)
エンレスト錠の副作用
降圧効果が強い為、ふらつきや高K血症に特に注意が必要なようです。他の副作用はそれほど強くない薬です。
エンレスト錠の特徴
- 高血圧と心不全で使用方法が異なります。
慢性心不全では1日2回で50㎎からスタートします。

高血圧では1日1回200㎎からスタート可能です。

- 必ずARBもしくはACE阻害剤から切り替える必要があります。(ACE阻害剤からの切り替えの場合は必ず36時間空ける必要があります)
- 高い降圧作用があります。
- 利尿作用があります。
なぜ高血圧と心不全で使用方法が異なるのか(メーカー説明)
サクビトリルの半減期が13.8時間のため、心不全の人には早期からしっかりと効果が出るようにするため1日2回にしているようです。
高血圧にはそこまで効果を出す事よりもコンプライアンスを重視しているとの説明でした。

半減期が13.8時間なら3日後くらいには定常状態になるのではないかと思うので、そこまで1日2回にこだわる必要もあるのかな?というところですが、心不全で先に申請が通っているので、1日1回の臨床試験を行っていないからというのも理由の一つなのかもしれません。
なぜACE阻害剤からの切り替えの時は36時間空けないといけないか
作用機序の関係でブラジキニン上昇のリスクが高くなるからです。ARBからの切り替えの場合は即時切替で問題ありません。
エンレスト錠の処方が出た!処方監査時の注意点!
- ACE阻害剤、ARBとの併用は禁忌になっています。
- エンレストの50㎎は日本人でのみ販売している規格の為、50㎎×2Tが100㎎と同等であるという試験を行っておらず、生物学的同等性が保証されていません。そのため、100㎎で処方が出た際は50㎎を2Tでは代用できないので注意してください。

100㎎を半分に割って50㎎で調剤することは可能です。200㎎を100㎎を2Tで調剤も可能なので、50㎎だけ特殊だと思ってください。
- 必ずACE阻害剤もしくはARBの使用歴があることを確認してください。ACE阻害剤からの切り替えの場合は36時間あけるように指示が出ているか確認してください。
- 特徴のところでも記載しましたが、高血圧と慢性心不全で使用方法が異なる為、何の適応で服用することになったのか、患者さんに病名の確認が必要です。不確かな場合は念のため疑義紹介が必要になります。
- 慢性心不全で服用の場合は50㎎から開始になる為、初回用量が正しいかどうか確認が必要です。
- 心不全で使用の場合、血圧が110mmHg 以下でないかどうかの確認が必要です。これ以下の場合は血圧が下がりすぎる為注意が必要です(添付文書上は95mmHg ですが、メーカー側は110mmHg以上を推奨しています)。
- K値が5.4mEq/L以上である場合は注意が必要です。成分であるバルサルタンによるK値上昇の恐れがあります。
- eGFR 30mL/min/1.73m2 以下の場合は試験を行っていないため安全性が保障されていません。
- 増量の場合は2週から4週あける必要があります。
実際どのくらい出ているか
現在処方が出始めたばかりですが、新しい作用機序の為、先生たちが積極的に興味を持って処方しているのを感じます。
主に循環器内科で出ているため、心不全で処方が出ていることが多いですが、一部高血圧でも出ています。今後実績が積まれてくれば、他科でも処方が増えてくることが予測されます。
2022.4.27追記)循環器内科で処方される人が増えてきました!
使い勝手の良さや、効果のすばらしさから処方が出る機会がここ数か月でぐっと増えました。
今までどんな薬でも血圧180以上、酷い頭痛に悩まされ手術しなかないと言われていた患者さんが血圧110程度まで下がり、嘘のように改善した例も見ました。本当にすごい薬だと思います。今後が楽しみですね!
2022年2.9 追記)山下 武志先生(公益財団法人 心臓血管研究所所長)の勉強会情報
エンレストはANPが出ていないために腎機能、心機能の悪化を来たしている人(1/4程度存在するようです)に非常に効果があり、1ヶ月程度で効果が出る場合はわかるようです。(逆に全く効果が出ない場合はANPがもともと良く出ているタイプの患者さんであるため、この薬は不要とのことで切り替える判断が出来るとのこと)
山下先生のお話では、従来の治療(ビソプロロール、RAS阻害薬、DOAC)では効果がなかったタイプの患者さんにも効果が出る可能性があり、4つ目の選択肢になりうるような非常に注目されている薬の様です。
効果が出ている場合は半年から1年程度でとてもよく効果を出し、心房細動の頻度減少、ICDを入れている場合は作動回数の大幅な減少が見られるという結果が出ているようです。

医師の講演会は難しい話が多いのですが、山下先生のお話はとても分かりやすく、薬理的な勉強もされてきた先生だけあって、薬剤師の私が聞いてもとても面白かったです。
山下先生の書籍情報(ARNIとSGLT2阻害薬についてシンプルにまとめてみました)
詳しい情報は先生が書いた書籍があるので、ぜひ読んでみてください。
SGLT2はほとんど腎臓の尿細管のみに存在するナトリウムーグルコース共輸送体なのに、なぜSGLT2阻害薬(ジャディアンス、フォシーガ)は心不全に効果があるのか?など、エンレストのみならずとても勉強になる話が分かりやすく書いてあります↓
まとめ
初回で出た場合は注意点が結構ある薬なので、しっかりと確認して監査するようにしてください。
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