先日メーカーによる勉強会を受けました。
その際に聞いたエンレスト錠の特徴と注意点(処方監査時のポイントなど)、実際の処方を受けてみて、どういった処方が出ているか等の情報をまとめました。
販売開始は2020年8月で、心不全に適応が通りました。
2021年9月に高血圧で新たに適応の追加されました。
2024年2月に新たにエンレスト粒状錠小児用が発売され、小児慢性心不全に適応が追加されました。
比較的新しい薬です。
※2024.10に再度メーカーに問い合わせをして情報を更新しました。
- エンレスト錠の効果、副作用、特徴
- エンレスト錠の監査時のチェックポイント
- エンレスト錠をもっと知りたい人におすすめの書籍
エンレスト錠の効果、副作用、特徴
エンレスト錠はどんな薬なのでしょうか?
アンジオテンシンIIAT1受容体拮抗薬(ARB)とはどのような違いがあるのでしょうか?
詳しく見ていきましょう!
エンレスト錠の効果とは?バルサルタンなどのARBとは何が違うの?
エンレスト錠はサクビトリルとバルサルタン(商品名:ディオバン)の複合体と考えていいようです。
バルサルタン (商品名:ディオバン) は使用実績が長いARBですので知っている人も多いでしょう。
サクビトリルはNa利尿ペプチド(ANP、BNP)を亢進する働きをします。
注射薬で有名なハンプ(成分名:カルペリチド)と類似の作用がある為、飲むハンプという人もいるようです。
※メーカーMRは因果関係はないと言っていましたが。
エンレスト錠のノバルティスファーマによる公式説明です↓
エンレスト錠は新しいクラスであるARNIに分類され、ネプリライシン(NEP)とレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)を同時に阻害する新規作用機序を有する薬剤です。
レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)を阻害することにより、アンジオテンシンII によって引き起こされる血管収縮、体液貯留、交感神経活性が抑制され、降圧効果を示します。
また、ネプリライシン(NEP)を阻害することで、生理活性を有するナトリウム利尿ペプチド(NP)の作用が増大し、血管拡張、利尿、尿中ナトリウム排泄、交感神経系抑制、心肥大抑制及び線維化抑制等の多面的な作用を示します。
ノバルティスファーマ エンレスト 医療従事者向け資料より
エンレスト錠50㎎はバルサルタン(先発品名:ディオバン)何㎎に相当する?
エンレスト錠50㎎はバルサルタン錠25㎎相当といわれています。
エンレスト錠200㎎を服用した場合はバルサルタン100㎎相当となり、最高用量ではないですが、バルサルタンの通常用量を超えてきます。
エンレスト錠は血圧を実際どのくらい下げるの?
かなり下げる(20mmHg前後)と報告されているため、110mmHg 以上の血圧の人に使用することが推奨されています(メーカー情報)
エンレスト錠は高血圧の第1選択で使用可能か?
高血圧の第一段階から使用することは推奨されておらず、何らかの降圧薬を前治療で用いていることが条件となります。
高血圧治療で用いる場合は、ARBやACE阻害薬だけではなく、カルシウム拮抗薬からの変更でも可能です!
しかし高血圧がかなり進行したケースではなく、低いステージからも使用することが可能です。
今後第一選択として使用することが可能になってくるかもしれません。
エンレスト錠は心不全の第1選択で使用可能か?
大人の慢性心不全で用いる場合は、必ずACE阻害剤もしくはARBから切り替えて投与することとされています。
小児の慢性心不全で用いる場合は初回投与も可能なようです。
<成人の慢性心不全>
5.1 本剤は、アンジオテンシン変換酵素阻害薬又はアンジオテンシンII受容体拮抗薬から切り替えて投与すること。
エンレスト錠添付文書より抜粋
エンレスト錠の利尿作用はどれくらいある?
メーカー側は利尿作用も多少あると説明しています。
エンレスト錠の副作用とは?
低血圧(8.8%)、高K血症(3.9%)、腎機能障害(2.4%)、血管浮腫(0.2%)などが報告されています。
エンレスト錠の特徴!適応症によって用法、用量がことなる!
高血圧と心不全で使用方法が異なります。
慢性心不全では50mg 1日2回からスタートします。
高血圧では1日1回200㎎からスタート可能です。
成人の慢性心不全で用いる場合には、必ずARBもしくはACE阻害剤から切り替える必要があります。
※ACE阻害剤からの切り替えの場合は必ず36時間空ける必要があります
高血圧で使用する場合には、ほかの降圧薬で前治療歴があるなど、原則として第一選択としないこととされています。
なぜエンレスト錠は高血圧と心不全で使用方法が異なるの?(メーカー説明)
高血圧にはそこまで効果を出すことよりもコンプライアンスを重視しているとの説明でした。
半減期が13.8時間なら3日後くらいには定常状態になるのではないかと思うので、そこまで1日2回にこだわる必要もあるのかな?というところですが、心不全で先に申請が通っている、1日1回の臨床試験を行っていないからというのも理由の一つなのかもしれません。
高血圧治療でも、1日2回で処方してもよい?
そのため、病名として慢性心不全を登録する必要があるだけでなく、1回50mg 1日2回から開始する必要があります。
また、前治療として、ARBやACE阻害剤を処方し、切り替え投与する必要があります。
先日、カルシウム拮抗薬からの切り替えでエンレスト錠200mg分2、心不全治療として処方が出たのですが、開始用量と前治療条件が不足しているため、保険で切られる可能性があるとメーカーから指摘を受けました。2024.10
エンレスト錠200mg分1(高血圧治療)からエンレスト錠100mg 2錠分2(心不全治療)に切り替えは可能
メーカーによると、エンレスト錠の同用量を事前に使用していれば、分1から分2に変更することは可能とのことでした。
ただし、病名登録とコメントが必要なようです。
他院で出ていたエンレストなら、いきなり200mg分2を処方してもいい?
他院で出ていたなら問題ないのでは…?と思っていたのですが、メーカーによると、こちらもコメントが必要とのことでした。
なぜACE阻害剤からの切り替えの時は36時間空けないといけないか
ARBからの切り替えの場合は即時切替で問題ありません。
エンレスト50mg 2錠は100mg 1錠と同等?
結論としては、現在は同等と考えられており、エンレスト50mg 2錠はエンレスト100mg 1錠と代替することが可能です。
発売当初は「エンレスト錠の50㎎は日本人でのみ販売している規格の為、50㎎×2Tが100㎎と同等であるという試験を行っておらず、生物学的同等性が保証されていません」といわれていました。
エンレスト錠の処方が出た!処方監査時の注意点!
- エンレスト錠とACE阻害剤、ARBとの併用は禁忌になっています。
- 成人の慢性心不全で使用する場合は、必ずACE阻害剤もしくはARBの使用歴があることを確認してください。ACE阻害剤からの切り替えの場合は36時間あけるように指示が出ているか確認してください。
- 特徴のところでも記載しましたが、高血圧と慢性心不全で使用方法が異なる為、何の適応で服用することになったのか、患者さんに病名の確認が必要です。不確かな場合は念のため疑義紹介が必要になります。
- 慢性心不全で服用の場合は50㎎ 1日2回から開始となる為、初回用量が正しいかどうか確認が必要です。
- 慢性心不全で使用の場合、血圧が110mmHg 以下でないかどうかの確認が必要です。これ以下の場合は血圧が下がりすぎる為注意が必要です(添付文書上は95㎜Hg ですが、メーカー側は110㎜Hg以上を推奨しています)。
- K値が5.4mEq/L以上である場合は注意が必要です。成分であるバルサルタンによるK値上昇の恐れがあります。
- eGFR 30mL/min/1.73m2 以下の場合は試験を行っていないため安全性が保障されていません。
- 増量の場合は2週から4週あける必要があります。
100㎎のみ半分に割って50㎎で調剤することが可能です。
エンレスト錠を半分に割れるかどうかの記事はこちら↓
エンレスト錠は実際どのくらい処方されている?
新しい作用機序の為、先生たちが積極的に興味を持って処方しているのを感じます。
主に循環器内科で出ているため、心不全で処方が出ていることが多いですが、一部高血圧でも出ています。
今後実績が積まれてくれば、他科でも処方が増えてくることが予測されます。
2022.4追記)循環器内科で処方される人が増えてきました!
使い勝手の良さや、効果のすばらしさから処方が出る機会がここ数か月でぐっと増えました。
今までどんな降圧薬でも血圧180mmHg以上から下がらず、酷い頭痛に悩まされ、手術しかないと言われていた患者さんが、エンレスト錠を開始してから血圧110mmHg程度まで下がり、嘘のように改善した例を見ました。
本当にすごい薬だと思います。今後が楽しみですね!
2024.2追記) 糖尿尿内科などの一般内科でも高血圧で処方されるように!
ARBやカルシウム拮抗薬と並ぶ新しい選択肢として処方される先生が増えてきました。
それほど利尿作用は強くないようでが、エンレスト錠の処方の際に念のため利尿剤の使用を中止する先生も多いようです。
2022年2.9 追記)山下 武志先生(公益財団法人 心臓血管研究所所長)の勉強会情報
エンレスト錠はANPが出ていないために腎機能、心機能の悪化を来たしている人(1/4程度存在するようです)に非常に効果があり、服用開始1カ月程度で、エンレスト錠が効果があるタイプかどうかがわかるそうです。
※逆に全く効果が出ない場合はANPがもともと良く出ているタイプの患者さんであるため、この薬は不要とのことで切り替える判断が出来るとのこと。
山下先生のお話では、従来の治療(ビソプロロール、RAS阻害薬、DOAC)では効果がなかったタイプの患者さんにも効果が出る可能性があり、4つ目の選択肢になりうるような非常に注目されている薬の様です。
効果が出ている場合は半年から1年程度でとてもよく効果を出し、心房細動の頻度減少、ICDを入れている場合は作動回数の大幅な減少が見られるという結果が出ているようです。
山下先生のお話はとても分かりやすく、薬理的な勉強もされてきた先生だけあって、薬剤師の私が聞いてもとても勉強になりました。
ARNIとSGLT2阻害薬についてシンプルにまとめてみました 著者:山下 武志
SGLT2はほとんど腎臓の尿細管のみに存在するナトリウムーグルコース共輸送体なのに、なぜSGLT2阻害薬(ジャディアンス、フォシーガ)は心不全に効果があるのか?
エンレスト錠のみならずとても勉強になる話が分かりやすく書いてあります↓
まとめ
初回で処方が場合は注意点がかなりある薬です。
しっかりと確認し調剤するようにしてください。
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