漢方は一般的に西洋薬に比較して副作用が弱くて安全だと思っている人も多いでしょう。
薬剤師、医師などの医療従事者であってもそのような印象をもっている人は多いです。
この記事では、厚生労働省の2005年から2014年の副作用情報に基づき、一般用漢方製剤の副作用の件数と内容を調査した論文を紹介したいと思います。
厚生労働省副作用情報に基づく一般用漢方製剤の副作用の件数と内容の調査|日東医誌 Kampo Med Vol67 No.2 184-190 2016
- 2005年から2014年の一般用漢方製剤による副作用
- 医療用漢方製剤の副作用の動向
- どのような漢方に多く副作用が報告されているか
- どのようなことに気をつけて漢方を利用すべきか
一般用漢方で報告された副作用と原因
2005年度から2014年度の間の一般用医薬品の平均副作用件数は318件/年ですが、そのうち一般用漢方製剤の副作用件数は36.7件/年です。
2005年度16件から2006年度に35件に上昇以降横ばい状態が続いています。
※正確な販売実数を把握するのは困難であり、厚生労働省のHPに記載された副作用がどの程度実態を反映されているか不明ですが、ある程度の参考にはなると考えられています(論文より)
多く報告された副作用
2005年度より2014年度の10年間に367件の副作用情報が掲載されています。以下にその内訳をまとめました。
副作用 | 件数 | % |
肝機能異常 | 151 | 41.1 |
薬疹・過敏症 | 55 | 15.0 |
肺障害 | 51 | 13.9 |
偽性アルドステロン症 | 21 | 5.7 |
腎尿路症状 | 19 | 5.2 |
消化管症状 | 17 | 4.6 |
その他 | 53 | 14.4 |
合計 | 367 | 100 |
副作用が多くみられた漢方製剤
副作用が10件以上報告されている、原因となる漢方製剤を以下にまとめました。
漢方製剤 | 件数 |
防風通聖散 | 110 |
葛根湯 | 45 |
八味地黄丸 | 15 |
大柴胡湯 | 14 |
痛散湯 | 13 |
安中散/芍薬甘草湯 | 12 |
辛夷清肺湯 | 12 |
とくに黄笒(オウゴン)には注意が必要
副作用原因としてあげられた漢方製剤の多くに黄笒(オウゴン)が含まれていました。
黄笒(オウゴン)は大柴胡湯、辛夷清肺湯、五淋散、防風通聖散など多くの漢方に含まれています。
また、黄笒(オウゴン)による副作用は八味地黄丸などの副作用よりも重篤な副作用をもたらす場合があり、注意が必要です。
その他の注意点
防風通聖散はダイエットでもたびたび話題にあがる漢方です。
副作用が多く報告された背景に、2008年のメタボ検診施行に伴い、販売量が増加したのではないかと考えられています。
そのため、気が付かずに複数の防風通聖散を服用している可能性があるため、注意が必要です。
葛根湯の副作用件数もここ10年で2倍に増加しています。
葛根湯の使用量あるいは使用される機会のいずれかが倍増している可能性があり、注意が必要です。
防風通聖散のダイエットに関しての記事はこちら
医療用の漢方で報告された副作用と原因
2014年度の医療用漢方製剤の副作用件数は278件であり、これは全医療医薬品による副作用の0.42%にあたるといわれています。
多く報告された副作用
以下に多く報告された副作用をまとめました。
副作用 | 件数 | % |
肺障害 | 104 | 37.4 |
肝機能異常 | 66 | 23.7 |
偽アルデステロン症 | 36 | 12.9 |
腸管膜静脈硬化症 | 26 | 9.4 |
薬疹・過敏症 | 20 | 7.2 |
心障害 | 8 | 2.9 |
横紋筋融解症 | 4 | 1.4 |
その他の消化管障害 | 4 | 1.4 |
腎尿路障害 | 3 | 1.1 |
その他 | 7 | 2.5 |
合計 | 278 | 100 |
一般用漢方製剤とは異なり、肺障害がもっとも副作用として報告されていました。
副作用のみられた漢方製剤
副作用が10件以上報告されている、原因となる漢方製剤を以下にまとめました。
漢方製剤 | 件数 |
芍薬甘草湯 | 27 |
柴苓湯 | 24 |
柴胡加竜骨牡蛎湯 | 16 |
防風通聖散 | 15 |
抑肝散 | 14 |
黄連解毒湯 | 14 |
乙字湯 | 11 |
加味逍遙散 | 9 |
一般用漢方製剤と異なり、葛根湯は3件とほとんど報告されませんでした。
甘草と山梔子の長期処方に注意
一般用漢方製剤と異なる点として、甘草、山梔子による副作用が比較的多く報告されていた点です。
一般用漢方製剤は長期服用例が少ないこと、軽微な副作用では報告にまでは至らなかったことが推測されています。
山梔子を含む漢方としては、加味逍遥散、黄連解毒湯、辛夷清肺湯、茵蔯蒿湯があります。
山梔子による腸管膜静脈硬化症の副作用は10年から20年の長期服用で出現することが報告されています。
上記の漢方が長期で処方されている場合は注意した方がよいかもしれません。
漢方を扱う際の注意
上記の論文での報告をもとに、気をつけるべきことをまとめました。
一般用漢方製剤に関して
近年のダイエットブームにより、ダイエット効果のある漢方(防風通聖散など)や風邪薬として使用されている葛根湯などの使用率が上昇傾向です。
重複服用しないように
一見防風通聖散とはわからないような名称で販売されている場合があります。
購入、販売、併用チェックの際はその点もよく念頭におき、重複していないか確認したほうがよいでしょう。
用法用量を守る
漢方は安全性が高いという印象がありますが、薬である以上は副作用が全くないということはありません。
そして、用法用量を守らずに服用すると副作用が出る危険性があります。
必ず指示を守って服用してください。
医療用漢方製剤に関して
検査を定期的に受けられる点では、一般用漢方製剤よりは安心です。
しかし、多剤服用や安易な長期処方となっているケースがあるため、注意したほうがよいでしょう。
安易な長期処方に注意
一般用漢方製剤と異なり、長期で漫然と漢方が処方されているケースがあります。
山梔子のように長期服用で副作用が発現する場合もあるため、安易な長期処方に注意が必要です。
多剤服用に注意
高齢者の場合、複数の漢方を服用している場合があります。
生薬が重複しており、副作用の原因となる場合もあるため、注意が必要です。
まとめ
漢方は一般的に西洋薬に比較して副作用が弱くて安全だと思っている人も多く、薬剤師、医師などの医療従事者であってもそのような印象をもっている人は多いです。
私自身も、漢方に副作用があることはわかっていても、どのくらい出現するのかは理解していませんでした。
今回は「厚生労働省副作用情報に基づく一般用漢方製剤の副作用の件数と内容の調査」という論文の重要点のみを記事にまとめました。
より詳しく知りたい方は下記論文を直接読んでみてください。
厚生労働省副作用情報に基づく一般用漢方製剤の副作用の件数と内容の調査|日東医誌 Kampo Med Vol67 No.2 184-190 2016
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