腎機能は年齢と共に徐々に機能が落ちてくる臓器です。しかし全く気が付かずに、先生からある日突然指摘されてびっくりする人も多いと思います。
病院で栄養士さんから指導が入る場合はいいのですが、栄養士さんの人数も限られているため、薬局で途方に暮れている患者さんによく遭遇します。

今回は薬剤師が下記の内容を中心に、簡単に家庭でできる食事のアドバイスと簡単な検査値の知識をまとめました!
- 医師はどこの数値をみて腎機能を判断しているのか
- 腎臓の低下が起きている場合に何に気を付けていったらいいか
- 腎機能が落ちると何が問題か
- 薬、病気の影響は考えられるか
- どんな食事をとったらいいか
- 食事療法は効果があるのか
- お勧めの市販の商品は?
- 運動療法でおすすめは?
わかる範囲内で抽象的ではなく具体的にお伝えしたいと思います。
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慢性腎不全(CKD)とは
腎障害や腎機能低下が慢性的に続く状態です。
「腎機能が低下している」と言われている殆どの方はこの 慢性腎不全(CKD)に該当しています。
放置すると末期腎不全になるため、早期発見・早期治療が大切です。
現在、日本には約1,330万人のCKD患者がいるといわれています。これは成人の約8人に1人にあたる数です。人工透析をうけている患者さんも、26万人を超えており、その数は毎年1万人ずつ増え続けています。
医師は検査値のどこを見て腎機能を判断しているか
血液検査の項目で言うと、血中尿素窒素(BUN)、血清クレアチニン値とeGFRという項目、病院によってはCCr(クレアチニン・クリアランス)という項目を見ています。また、尿検査では尿たんぱくが検出されてきます。
血中尿素窒素(BUN): 正常値は20mg/dl以下
血液中に含まれる窒素量を調べる検査です。
尿素窒素は、タンパク質が利用された後にできる老廃物です。
本来は、腎臓の糸球体でろ過され尿中に排泄されますが、腎機能が低下するとろ過しきれずに血液中に溜まるため、血液中の尿素窒素の値が高くなります。
血清クレアチニン値 :正常値は、男性1.2mg/dl以下、女性1.0mg/dl以下
クレアチニンは筋肉に含まれているタンパク質の老廃物です(そのため、男性の方が女性よりも高い数値になります)。
本来は、尿素窒素と同様に腎臓の糸球体でろ過され尿中に排泄されますが、腎臓の機能が低下すると尿中に排泄される量が減少し、血液中にクレアチニンが溜まります。
腎臓の機能の低下とともに、血清クレアチニンの値は高くなってきます。
推算糸球体濾過量eGFR :正常値は、おおよそ60ml/分以上です。
血清クレアチニン値と年齢と性別から計算できます。
腎臓にどれくらい老廃物を尿へ排泄する能力があるかを示しており、この値が低いほど腎臓の働きが悪いということになります。
CCr(クレアチニン・クリアランス) : 正常値は、おおよそ100~120ml/分です。
糸球体でろ過される血液の量を調べる検査です。
クレアチニンが実際にどのくらい腎臓で排泄されているかを見るための指標です。
血清クレアチニンをもとに計算します(検査室で正確に2時間尿を溜める2時間法という測定方法もあります)。
クレアチニン・クリアランスは腎機能を最も正確に把握でき、特に初期の腎機能悪化を鋭敏に捉えるという特徴があります。
腎機能が悪くなるとろ過される量が減るため、クレアチニン・クリアランスの値も下がります。年齢が高くなるにつれても低下します。

一番重要でよく見ている数値はeGFRもしくはCCr値になります。
eGFRが概算なのに対し、CCr値は体重も加味して計算されるので、より正確な数値がわかります。(ただ、肥満や虚弱状態の場合はeGFRの方が正確な場合もあります)
どのくらい数値が落ちると、要注意と言われるか
医師により感覚に差があるので、ここから絶対!という基準値があるわけではないですが、eGFRもしくはCCrが40未満になると要注意と言われているケースが多いです。

ほとんどの方がこの時具体的な症状はありません。検査項目でLがついているものの、気にも留めていない方がほとんどです。
腎機能が落ちてくるとどういった問題が起きるか
腎機能の低下が進むと、吐き気や食欲不振、むくみ、かゆみ、皮膚の色素沈着、呼吸困難、高血圧など尿毒症と呼ばれる症状が現れ、けいれん、感覚の喪失、手足のしびれなどの神経症状のほか、 心臓病や脳卒中 、心不全、肺水腫など致命的な合併症も懸念されます。また、骨がもろくなるため、骨折なども起こしやすくなります。
どのくらいのスピードで落ちてくるのか
25歳を過ぎるとCCr(クレアチニンクレアランス)もしくはeGFRは1.0%/年の割合で低下すると言われています。
CCr低下率=(年齢-25)×0.01
高齢者のCCr=若年者CCr(100~80ml/分)×([年齢-25]×0.01) 程度になると考えられます。

80歳の高齢者であれば55~44ml/分くらいまで落ちているのは仕方がないということですね。
薬、病気の影響は考えられるか。
原因の病気、生活習慣
病気が原因としては、糖尿病や慢性糸球体腎炎(蛋白尿や血尿が長期間持続する病気)が考えられますが、肥満や運動不足、喫煙、ストレスなどからくる高血圧症、高脂血症などのメタボリックシンドロームもCKDの発症に大きく関与しているといわれています。その他として遺伝も考えられています。
原因の薬剤
薬は身体から出ていく際に、肝臓で代謝(無毒化)されて尿や、便で排泄されるものと、無毒化されずにそのまま腎臓から排泄されるものがあります。
この無毒化されずに有効性をもったまま腎臓から排泄される薬(腎排泄型)が、腎機能が落ちてくると用量を減らさないと体の中で効きすぎてしまったり、腎臓に影響を与えることがあります。
腎排泄型の薬剤はかなり沢山あるので、医師や薬剤師も注意してみていることが多いですが、医療機関によっては全く血液検査をしない所やあまり気にしていないところもあるので、そういった場合は健康診断結果を定期的に見せて確認をとってもらった方がいいと思います。(念のため、医師と薬剤師両方に見せてください)
~ドラッグストアで市販薬を購入する際の注意点~
胃薬と痛み止めを購入する際は注意してください。
胃薬のうちH₂ブロッカー(代表薬剤:ガスター)と痛み止めのうちNSAIDS(代表薬剤:ロキソニン、イブプロフェン等)は長期で服用すると腎機能に影響が出る可能性があります。既に腎機能の低下を指摘されている場合は市販で購入するのは避けた方がいいでしょう。
どんな食事をとったらいいのか。水の制限は必要?
食事療法の基本は以下の通りです。
- 水分の過剰摂取や極端な制限は有害
- 食塩の摂取量は基本は3g/日以上6g/日未満
- 肥満の改善に努める
- たんぱく質の制限(0.6~0.8g/㎏/日)
- カリウム高値であればK制限
- 性別、年齢、運動量を加味して、30~35kcal/kg/日(肥満の糖尿病では20~25kcal/kg/日も可能)
- 適正飲酒量はエタノール量として男性では20~30ml/日(日本酒1合)以下、女性は10~20ml/日以下
(やさしい慢性腎臓病の管理 改訂4版 参照※現在は絶版になっています)

ネット上に山ほどレシピや詳しいサイトがあるので、ここではこれ以上のことは省きたいと思います。具体的にどのくらいの調味料が使えるかなどの目安は、例えばこちらの「ウェルネスレシピ」などで調べてみてください
食事療法は効果があるのか
かなり効果があります! 一度落ちてしまった腎機能を改善することは難しい(腎臓は肝臓と違って再生しない臓器なので)ですが、腎臓機能の悪化を鈍化させることは食事療法で十分に出来ると思います。
実際に薬局で担当している患者さんでは、食事療法を頑張っている方は10年くらいたってもそれ以降の腎機能の低下があまり見られませんでした。
普段は減塩やタンパク制限に努めていれば、旅行や孫が来た際など特別な時のみ少し食べ過ぎてしまっても大きな影響は出ないようです。(個人差があること、腎機能の悪化の程度によるので、透析などを検討する段階にいる方は医師の指示に従ってください)
お勧めの市販の商品、宅配サービスは?

塩分がどうとか、たんぱく質がどうとか色々言われてもさっぱりよくわからない。
油を減らして豆腐などのたんぱく質を増やしていたのに、このままだと何も食べるものがなくなってしまいます。
どうしたらいいのか。

ネットや本で見ても色々書いてあってよくわからないですよね。
そういう時はとりあえず市販のもの、通販のものを一度利用してイメージをつかむといいかもしれませんよ。

糖尿病が併発している場合には、教育入院を行っている病院もあるので、探してみると良いでしょう。
教育入院では、糖尿病の知識のみならず、腎臓に関して、食事に関して丁寧に教えてくれます。更に、実際に栄養士さんが作ったメニューをみることで、どんな食事をとればよいのかの参考にもなります。
お勧めの宅配サービス
宅配サービスは色々ありますが、普通の人向けや成人病向けのサービスが多いので、腎臓病を指摘されている方はその病気を考慮した宅配サービスを頼んだ方が、今後どのような食事を作ったらいいのかの具体的なイメージをつかみやすいと思います。
メディカルフードサービス株式会社
腎臓病や生活習慣病などでお困りの方向けの全国食事宅配サービスを行っています。
介護向けの柔らかい食事なども扱っています。お試しセットもあるので、味がどうか気になる方でも、気軽に始めやすくなっています。


ウェルネスダイニング株式会社
こちらは弁当の宅配のみならず、スープや半完成品(後は少し焼いたりするだけ)なども扱っており、イメージが更につかみやすくなっています。
また、レシピなどもサイトには載っているので、こちらの宅配サービスでイメージがつかめたら、レシピを見ながら色々チャレンジしてみるのもいいかもしれませんね。




市販の商品
腎臓病の方向け減塩調味料セット
私の義父が腎臓病なので、夫から言われて実際にこちらを年に2回購入して送っています。
味もいいようです。

初回の方向けにお試しセットもあります

キッセイゆめシリーズ レトルト
宅配サービスは料金的にも敷居が高いという方はレトルト食品も販売されています。
これでも十分イメージはつかめると思います。

他にも簡単な工夫は?
減塩しつつ「おいしく食べる」工夫を教えます!
- うま味:天然だし(昆布、削り節、干し椎茸など)のうまみを活かす
- 香ばしさ:薄い味付けでも、焼き立て、揚げたての香ばしさで美味しく食べる
- 香辛料:スパイス、ハーブ、生姜、にんにく、こしょう、わさび、からし、七味、トウガラシなどを使う
- 酸味:酢、レモン、ゆずなどの柑橘系、トマトなどの酸味を使う
- 塩分と甘味は一緒に減らす:塩や醤油の量を控えるときは、砂糖やみりんも一緒に減らす
- 味は食品の表面につける:塩味は舌に触れたときに感じる為、下味を付けるより、食べるときに調味して表面に味を付けるようにする
(やさしい慢性腎臓病の管理 改訂4版 参照※現在は絶版になっています)

最近は小学校の給食もものすごく減塩されています。はじめは物足りなく感じますが、慣れればとてもおいしく感じるようになるようです。
たんぱく質を減らすコツ
低タンパク質食を効率よく実施するためには、摂取たんぱく質の6割以上を肉、魚、卵などの動物性たんぱく質でとるようにします。
さらに米の中に含まれるたんぱく質を減らすため、低たんぱくご飯やでんぷん製品を取り入れた食事療法を実践します(やさしい慢性腎臓病の管理 改訂4版 参照※現在は絶版になっています)

主食(パンやごはん)を低たんぱく食に抑えることがポイントです。そうすれば主菜(おかず)の肉類の減量を少なくすることができ、一般的な食事とあまり変わらない献立にすることが出来ます。
カリウム(K)を減らすコツ
1.カリウムの多い食品を控える
- 果物(バナナ・メロンなど)、ドライフルーツ
- イモ類
- 野菜類(ほうれん草、カボチャなど)、乾燥野菜(切り干し大根、野菜チップス)
- 豆類・ナッツ類・海藻・緑茶・100%ジュース・野菜ジュース・青汁など
2.調理の工夫でカリウムを減らす
カリウムは水にとけやすい性質があるので、細かく切った後、たっぷりの流水にさらしたり、たっぷりのお湯でゆでこぼすことで、カリウムを減らすことが出来ます

電子レンジでの加熱ではカリウムは減少しないので注意してください
(やさしい慢性腎臓病の管理 改訂4版 参照※現在は絶版になっています)
リン制限のポイント
- たんぱく質をとりすぎない
- 牛乳、乳製品、卵、小魚を控える
- 加工食品(魚練製品、ハム、ソーセージ、インスタント食品、冷凍食品)を控える
- コーラなどのソフトドリンクを控える
水分管理
特別医師から水分制限がかかっていない場合は、水分の極端な制限や逆に過剰な摂取は有害になります。原則として水分制限の必要はなく、むしろ脱水にならないように心掛ける必要があります。
運動療法でおすすめは?
糖尿病や肥満を防ぐために適度な運動が必要です。
運動の目安としては週に3~5回程度、時間にして1日30分前後です。
肥満解消には1回15分以上の継続した運動が必要となりますが、1回10分程度の運動を3回に分けて行っても運動の効果は得られます。
腰や膝を悪くしている方は、温水プールでの水中歩行が推奨されます。
最後に
投薬時に食事に関して聞かれることが本当に多い為、よく聞かれる疑問に答えるつもりで記事を書きました。
栄養士さんに直接指導してもらえればそれが一番だと思いますが、難しい場合はこんな工夫もあるよ、という参考にしてもらえればと思います。
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