先生から薬が手に入らないから変更すると言われたり、薬局で薬が手に入らないから疑義紹介で変更になったり、ジェネリック医薬品メーカーがコロコロ変わって薬局に不信感を抱いている人は結構いるのではないでしょうか。
このような現状になってしまった発端と背景、長引く理由、薬局内での混乱状況を合わせてわかる範囲で解説していきたいと思います。
- 薬が手に入らないので困っている人
- 出荷調整がおきている原因を知りたい人
- 薬局に不信感をもちはじめている人
ジェネリック医薬品(GE)とは?先発品との違いは?
先発品と成分が同じで安い薬と聞き、薬局でジェネリック医薬品に変更している人は多いと思います。
知らず知らずのうちに処方箋にジェネリック医薬品が記載されていて、ジェネリック医薬品であることを知らずに服用している人も多いのではないでしょうか?
ジェネリック医薬品がどんなものなのか、簡単に説明したいと思います!
ジェネリック医薬品と先発品のちがい、どのくらい安いの?
ジェネリック医薬品は、後発医薬品とも呼ばれ、新薬と同じ有効成分を同じ量含んでいます。
一方、味や形、大きさ、添加剤などは異なってもよいため、患者さまの飲みやすさなどを考えて製剤開発されたお薬もあります。
すべてのジェネリック医薬品は品質や効き目、安全性が新薬と同等であることを確認しており、国の承認を受けて製造販売しています。
日本ジェネリック株式会社のHP
薬価に関しては先発医薬品の50%以下の値段(内用薬については、 銘柄数が10を超える場合は、40%以下の値段)とすることが国で定められています。(日本ジェネリック製薬協会のHP参照)
窓口で支払うお金は、この薬剤費と調剤料などの技術料などを合わせたものに、1割から3割の負担をかけたものになります。
ジェネリック医薬品にはオーソライズド・ジェネリック(AG)というのもある
新薬メーカーから許諾を得て製造した、原薬、添加物および製法等が新薬(先発医薬品)と同一のジェネリック医薬品や、特許使用の許可を得て、優先的に先行して販売できるジェネリック医薬品です。
第一三共エスファ株式会社HP
普通のジェネリック医薬品に比べて先発品と製造工程、添加剤が同じであるため、ジェネリック医薬品に抵抗のある人でも手に取りやすい、すすめやすいジェネリック医薬品であると言えるでしょう。
ジェネリック医薬品に抵抗のある医師でも選択しやすい商品です。
しかし以下のような問題点も指摘されています。
オーソライズドジェネリック(AG)を謳う薬の中にも、一部ほとんど普通のジェネリック医薬品GE)と変わらないものも存在しているので注意が必要です。
医師や薬剤師の中にも知らない人もたくさんいます。
「なんちゃってオーソライズドジェネリック」は製造場所や原薬の仕入れ先などが異なり、BE試験を受ける必要があり、まったく先発品と同じとは言えない薬と言えます。(m3.comのコラム参照)
ジェネリック医薬品が普及していった背景とは?
グラフでみると一目瞭然ですが、高齢化、薬剤費の高騰に伴い、年々医療費の高騰が続いています。
次々に新薬が開発され、以前は不治の病と言われたものが薬の力で治る時代が来ているのはうれしい反面、最近の新薬は高価すぎるものが多く、数百万を超えるような薬も沢山あります。
医療費の高騰でどこかの費用を削るしかなかった
平成25年当時は45%程度であったジェネリック医薬品普及率はここ7年程度の間に80%程度まで上昇しています。
高騰する医療費の削減の為、厚生労働省が普及に力を入れ始めたためです。
医療機関も薬局も、ジェネリック医薬品の普及に協力すると国からの評価が高くなり、医療費請求の際に加算がとれる制度改正を国はおこないました。
国からの圧力、薬局や医療機関は医療費の削減によるさまざまな点数改正による収入減少により、従わざる得ないのが現状です。
また、医療費の高騰をどうにかしければ医療制度そのものが破綻する恐れがあるため、この国全体の課題でもあります。
2024年度からさらなる先発品への圧力
さらに2024年度から、どうしても先発品を希望する患者に対して、先発品とジェネリック医薬品との差額分を本人に請求することを厚生労働省は検討しています。
厚生労働省は2024年度中にも後発薬(ジェネリック医薬品)がある先発薬の自己負担を見直す。後発薬との差額の4分の1(25%)を患者の負担に上乗せする案を軸に検討する。年内にも詳細をとりまとめる。
後発品ある薬の自己負担 差額の25%軸検討 24年度にも|日本経済新聞
諸外国は日本よりも前からジェネリック医薬品は普及していた
2009年当時なので12年前の情報ですが、アメリカやイギリスなどはこの時点で72%程度までGEの普及が進んでいました。
日本もほかの諸外国の状況に近づいてきていると言えるでしょう。
ジェネリック医薬品の出荷停止、回収が相次いだ理由と背景
ジェネリック医薬品のことはわかったけれど、ではなぜ出荷調整が相次いでおこっているのでしょうか?
一体いつになったらおさまるのでしょうか?
詳しく見ていきましょう!
発端は小林化工の医薬品混入事件
小林化工株式会社が起こした不祥事を覚えていらっしゃるでしょうか?
爪水虫の治療薬に睡眠導入剤の成分が混入していた事件です。2020年12月ごろに発覚しました。
その結果知らずに服用してしまった患者さん2人が死亡、そのほかにも多数の患者さんに健康被害をもたらしました。
一気にジェネリック医薬品への不信感が広がり、先発品に戻したいと言う患者さんが増えました
小林化工株式会社の親会社である日医工にも検査が入る
日医工株式会社は大手GEメーカーで、医療業界で働いている人ならば聞いたことはないというような製造メーカーです。
ただ、日医工株式会社の中でのみ製造工程の全てを行っているわけではなく、子会社である小林化工株式会社に一部製造を委託していました。
そこで国の検査が親会社である日医工にも入り、結果として医薬品申請した時の工程等の一部が守られていない医薬品が多数見つかり、こちらも業務停止処分を受けました。
これが2021年の3月ごろの出来事でした。
業務停止処分を受ける可能性があるというニュースが事前に医薬品関係者の間で出回り、薬の買い占めをしようとした薬局が沢山出て、パニックになったのを覚えています。
日医工、2023年3月29日に上場廃止
小林化工の事件に続き、日医工本体の製造にも改善命令、生産停止などがおきたため、経営不振に陥ってしまいました。
1965年設立の日医工は80年に名証に株式を上場し、現在は東証プライム市場に所属している。
後発薬大手として国の普及策を追い風に成長を続けたが、品質不正が発覚し、2021年に富山県から業務停止命令を受け、主力工場で32日間生産を停止した。
22年12月に私的整理の一つである事業再生ADR(裁判以外の紛争解決)が成立し、金融機関から事業再生計画が承認された。
今後は企業再生ファンドのジェイ・ウィル・パートナーズ(JWP)と医薬品卸のメディパルホールディングス(HD)の傘下で再建を進める。
日医工、29日に上場廃止 ファンド傘下で再建|日本経済新聞
全国のジェネリック医薬品メーカーに一斉調査
事態を重く見た厚生労働省は全国のジェネリック医薬品メーカーに抜き打ち一斉検査に入りました。
相次ぐジェネリック医薬品の回収、出荷停止
どこの会社が何の違反にかかったかまでは、あまりにも量が多すぎて、私たちもさっぱりわからない状況です。
先発品やほかのジェネリック医薬品も影響をうけて供給不安定に
製薬会社は過剰な医薬品の供給で損が出ないように、売れる分だけの医薬品を製造、販売するようにしています。
しかしこのように急に他社が供給停止に陥ると、ほかのジェネリックメーカーの商品に変更や先発品に戻そうとする動き、供給停止に陥る恐れから買い占めが起こります。
コロナウイルスや地震の時に、トイレットペーパーやティッシュの買い占めが起きたときと同じことが、医薬品業界でも起きている状態です。
工場の火災で更なる影響あり(2021.12.22 追記)
大阪市にある日立物流が管理する倉庫で11月29日に火災が起き、消火に4日程度かかりました。
その倉庫では多数の医薬品メーカーの医薬品が大量に保管されていたとされ、全国に影響が出ています。
いつまで出荷調整は続くのか?当初は数か月で終わるのではと思っていたが…
当初は現場でも数か月程度でおさまるだろうと思っており、多めの1ヶ月程度の医薬品の在庫を確保するように本社からでも指示されていました。
例えば沢井製薬株式会社の出荷調整リストの一部です。462品目に上ります。沢井製薬も日医工と同様に大手のジェネリックメーカーなので、非常に影響が大きいです。
追記)2023年5月現在
いまだ出荷調整が収まる見通しが立たず、改善しているどころか、悪化している気すらします。
このままだと小さな薬局はつぶれる!?薬局、卸は大混乱!医療機関にも影響
出荷調整が続くと患者さんも困っていると思いますが、薬局や医療機関はかなり困っています。
大手薬局に優先的に薬が流れるように
出荷調整が続き、医薬品が入りにくい状況が続くと、医薬品の卸売り会社も以前から取引のある会社に優先的に薬を卸すようになってきます。
薬が不足する場合は他の薬局から一部購入することもあるのですが、このように薬が手に入りにくい状況だとほかの薬局も薬の売り渋りをします。
処方箋の中に一つでも用意できない薬がある場合、その薬局が仕方なくほかの薬局を紹介せざる負えなくなってしまいます。
そしてほかの薬局に行ってしまった患者さんはほとんどの場合、その薬局にはもう戻ってきません。
薬局ではクレームを言う患者が増えはじめている
先発品に戻すことになったため会計が上がったことへのクレーム、ジェネリック医薬品のメーカー変更が相次いでいることに対する不満など、現場ではどうにもならないことであるにもかかわらず、納得できない患者さんから訴えが出始めています。
医薬品の出荷調整の影響は医療機関にも
それでもどこかしらのジェネリックメーカーや先発メーカーが、がんばって少しずつでも供給できている薬はまだましです。
働いている薬局ではサラゾピリンが先発も、後発も入りにくくなり、他薬局から紹介出来ないかと聞かれることが増えてきました。
しかし過剰に他薬局の患者さんを受けてしまうと、通常通ってくれている患者さんの分が足りなくなるため、致し方なく断っている状況です。
なぜジェネリック医薬品の不祥事が相次ぐような状況になってしまったの?
不祥事がつぎつぎに起こる場合は、1社だけの問題ではなく、制度上の問題や社会的な問題が背景にある可能性が高いです。
医薬品の審査は信じれれないくらい厳しい
医薬品の製造工程、審査は食料品、サプリメントと比較しても比べ物にならないくらい厳しいと言われています。
例えばチョコレートであれば、原材料のベトナム産のカカオが高騰した場合は安いブラジル産のカカオに変更などの対応ができます。
しかし、もしもそれが医薬品だった場合は、ベトナム産のカカオに対して様々な溶出性試験、含有試験などを行っているため、変更することが許されません。
変更する場合は、それに対してまた申請を通すために試験を行う必要があります。
毎年引き下げられる薬価改定、円安による原材料費高騰でジェネリック医薬品メーカーは限界
円安による原材料の高騰や毎年引き下げられる薬価改定、申請時の厳しすぎる基準要件を満たし続けるためにジェネリック医薬品メーカーは限界にきていると考えられます。
一般の方はあまりご存知ないかと思いますが、医療用医薬品の価格(薬価)は、くすりの効果などを考慮して厚生労働省によって決められます。
普通の商品であれば市場の需要と供給で価格が決まると思いますが、薬価のみ、国が自由に決めることができるのです。
つまりどんなに赤字になってしまうような価格設定であっても、メーカー側が国の要求を飲まないといけないという理不尽な事情があるのです。
2022年度の薬価改定でも大幅な薬価引き下げが行われました。
2024年度の薬価改定でも物価上昇にもかかわらず、さらなる薬価引き下げがおこなわれました。
ある日突然、大手医薬品メーカーが倒産するような時代に入ってきているような気がします。
物価上昇による人件費高騰もさらなる追い打ちをかけています
医療費の高騰のしわ寄せを薬価引き下げに頼るの限界!医薬品の品質低下にも
「品質は保持したまま、価格が下げろ」という無理な要求を製薬会社に国がし続けると、今回のような問題は繰り返され、やがて医療崩壊につながる可能性もあります。
こちらの記事も参照してみてください→ジェネリック医薬品の供給が「不安定」になった理由とは?メーカー幹部からは怒りの声
溶出試験の試験方式が変わり、それに対して適合しない医薬品が増えているため、メーカーによる自主回収もおきています。
薬価削減、物価上昇、試験方式の変更などメーカーは限界です。
どの薬が出荷調整かわからない!出荷調整リストを検索する方法
出荷調整のお知らせの紙が山のように毎日とどくため、把握しきれていない薬局や医療機関も多いと思います。
メーカーのホームページ以外に、出荷調整になっている医薬品を調べる方法と、最新の出荷調整に関する情報を誰よりもはやく調べる方法を以下に記載しました。
医療用医薬品供給状況データベース(Drug Shortage JP)
「医療用医薬品供給状況データベース DrugShortage.jp(通称:DSJP)」は、出荷調整や出荷停止などの医薬品供給状況を登録しているデータベースです。
2021年初頭から始まった大規模な出荷調整の膨大な情報を整理するために、SNSで集まった有志によってデータ入力が行われました。
出荷調整などの告知は雛形も決まっておらず、製薬会社各々の方法で告知されているため、データは全て手入力でデータベースに登録されています。
現在、費用はGoogleAdSenseによる広告収入で補填されており、引き続きボランティアにより運営されています。( 医療用医薬品供給状況データベース(Drug Shortage JP) HPより抜粋)
ただ、こちらは有志のボランティアの集まりであるため、情報が遅いデメリットがあります。
X(旧 Twitter)から出荷調整の情報を得る
個人のTwitterアカウントになりますが、何人かとても詳しい情報を即時でアップしてくれている方がいます。
個人的にされているものなので、いつアップされなくなるかはわかりませんが、今のところ非常に情報源になってくれています。
おわりに
2025年問題(2025年までに団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となるタイミングの前後で引き起こされる様々な問題の総称)は医療業界でも問題になっており、いつ医療崩壊が起こってもおかしくないと言われてきました。
コロナの影響でさらに医療費の財源不足に陥り、いよいよ医療の現状維持が難しくなってきたなと今回の「ジェネリック医薬品の供給不安」でも感じています。
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