【薬剤師が解説!】ウソ!?ベルソムラ(スボレキサント)、デエビゴ(レンボレキサント)は眠剤じゃない?

薬の知恵袋

 

以前はよく処方されていたベンゾジアゼピン系の眠剤が、最近は安易に専門医以外から処方されなくなってきました。

その代わりに比較的よく処方されるようになってきた「ベルソムラ(スボレキサント)」 「デエビゴ(レンボレキサント)」

患者さんからもこの薬に関して聞かれることが多いので、一度よく聞かれる疑問点を中心にまとめてみました。

ベルソムラ(スボレキサント)、デエビゴ(レンボレキサント)はどういう作用、特徴の薬か

「ベルソムラ」「デエビゴ」のどちらも オレキシン受容体拮抗薬と言われる薬です。

「ベルソムラ(スボレキサント)」「デエビゴ(レンボレキサント)」の作用メカニズムには、”オレキシン”という覚醒に関係する物質が大きく関係しています。オレキシンは日中に増加し、夜間になると減少するので、睡眠状態と覚醒状態を切り替えるスイッチのような役割を果たしています。

しかしオレキシン神経活動が高く維持されすぎると、覚醒システムが過剰に働き、不眠を引き起こしやすくなると考えられています。

「ベルソムラ(スボレキサント)」「デエビゴ(レンボレキサント)」 はこのオレキシンの受容体に働き、オレキシンの働きをブロックし、覚醒物質を抑え、睡眠状態にスイッチさせることで睡眠作用をもたらします。

入眠、中途覚醒、早朝覚醒、熟眠障害にも有効

「ベルソムラ」「デエビゴ」の最高血中濃度到達時間は約1.5時間、半減期(血中濃度が半分になるまでの時間)は「ベルソムラ」は10時間、「デエビゴ」は50時間とされています。

このように最高血中濃度到達時間は比較的短いため、即効性が期待でき、服用から30分ほどしたら眠気が強まってくるので、入眠障害にも効果を期待することができます。ただし、自然な睡眠になるため、やや効果が不十分となることがあります(弱いと感じる人もいます)。

また半減期は長く、中途覚醒や早朝覚醒、熟眠障害にも有効ですが、明け方になると生理的なオレキシンが上昇して、オレキシン受容体を「ベルソムラ」「デエビゴ」から奪って、覚醒が優位になって目が覚めます。

また、緊急時に起きれないほどの強い覚醒抑制効果はありません。

総括すると、全体の睡眠を良質なものにして延ばす薬と考えるといいと思います。。

ベルソムラ(スボレキサント)とデエビゴ(レンボレキサント)の違いは?

ベルソムラ(スボレキサント):2014年発売

デエビゴ(レンボレキサント):2020年発売

「ベルソムラ」「デエビゴ」のどちらもオレキシン1受容体とオレキシン2受容体を阻害します。

「デエビゴ」は「ベルソムラ」に比べてよりオレキシン2受容体を阻害します。

オレキシン2受容体がより覚醒に関与するとされており、「デエビゴ」は「ベルソムラ」より睡眠に対する作用が強いと考えられています。

また、 「デエビゴ」「ベルソムラ」の湿気に弱い欠点、相互作用が多い欠点を改善し、「ベルソムラ」に比べて保管がしやすく、他の薬への影響が少ないというメリットもあります。「デエビコ」は一包化できます。)

「ベルソムラ」「デエビゴ」食事の影響で効果(AUC)が1.2倍、2時間効果が出るのが遅れると報告されているため、可能であれば食後3時間くらい経ってから服用した方がいいでしょう。

飲むタイミングはいつ頃がいいか

寝る前30分くらい前がおすすめです。

どのような副作用があるか

  • 飲みなれない方だと、強い眠気が次の日に残ることがあります。車の運転に注意喚起されているので、服用開始や増量時には注意してください。
  • また、レム睡眠が伸びる影響で悪夢【ベルソムラ(4.7%)、デエビゴ(1~3%)】を起こすと言われています。しかしこの副作用は、本人のストレスの程度に影響を受けるともいわれています。
  • ナルコレプシー(突然眠気に襲われる病気)が悪化する恐れがあります。

一般的な眠剤(ベンゾジアゼピン系)との違いは?

出典:いらすとや

ベンゾジアゼピン系【代表的な薬剤:ハルシオン(トリアゾラム)、レンドルミン(ブロチゾラム)】や非ベンゾジアゼピン系【代表的な薬剤:マイスリー(ゾルピデム)、アモバン(ゾピクロン)】は、GABAに影響を及ぼし、強引に疲労感のような眠気を引き起こします。

習慣性と依存性、耐性があり、現在は専門医以外は安易に処方されなくなってきています。

また、筋弛緩作用、鎮静作用、認知機能に対する影響も指摘されているため、高齢者には特に処方時には本当に必要かどうか確認が必要な薬になります。

「ベルソムラ」「デエビゴ」は依存性、耐性はでるのか

本来の眠気を強める形なので、全くないわけではないですが、依存性が極めて少なく、強引さがなくて、効果が人によっても異なるという特徴があります。

認知機能に対する影響や、筋弛緩作用もほとんどないと言われています。

また睡眠薬を急に減量したり中断した場合に、以前より強い不眠が出現するという反跳性不眠が起こりにくいとされています。

そのため、「安全性の高い眠剤」であると言えると思います。

一般的な眠剤と違って処方制限がない

主に眠剤と言われるベンゾジアゼピン系、非ベンゾジアゼピン共に30日の処方日数制限があるものがほとんどです(一部ないものもあります)

しかしこれらの眠剤と異なり、「ベルソムラ」「デエビゴ」のどちらにも処方日数制限はありません。

一般的な眠剤から切り替える場合の注意点

  • ベンゾジアゼピン系、非ベンゾジアゼピンどちらからの切り替えの場合でも、効果が弱く感じる可能性があります。
  • ベンゾジアゼピン系、非ベンゾジアゼピン共に、高用量を服用している場合は、いきなり切替えると離脱作用が起こる為危険です。医師の指示に従って徐々に切り替えていくようにしましょう。

頓服(眠れないときに飲む)で服用していい薬か

基本的には定常状態(連日服用で血中濃度が一定になる)になる薬であり、連日服用2日後に本来の効果が出る薬の為、頓服では効果が立証されていません。(メーカー確認済)

ただ、医師から許可があり、頓服で服用している方もいます。

注意が必要な併用薬は?

出典:いらすとや

「ベルソムラ」は結構禁忌薬が多く、CYP3Aを強く阻害する薬とは併用禁忌となっています。具体的には…

  • イトラコナゾール(商品名:イトリゾール)
  • クラリスロマイシン(商品名:クラリシッド)
  • リトナビル(商品名:ノービア)
  • ネルフィナビル(商品名:ビラセプト)
  • ボリコナゾール(商品名:ブイフェンド )
かばこ
かばこ

CYP3とは、肝臓に主に存在(皮膚などほかのところにもいますが…)し、身体に入った薬剤を無効化(代謝)する酵素の事です。

この酵素を阻害されると薬が代謝されず、血中濃度が上がってしまいます。

この中で最も併用、頻用されやすく、気を付けたいのはクラリスロマイシン です。

今の薬局に勤め始めてから3回くらい、クラリスロマイシン+ベルソムラのセットをお薬手帳で見かけました。

大体この場合のクラリスロマイシンは耳鼻科、歯科で出ていることがほとんどで、耳鼻科、歯科ではあまりベルソムラに触れる機会がない為、医師が禁忌であることを知らずに処方しているようです(そして薬局も禁忌に気が付かずに調剤)。

私がお薬手帳で見た際には、クラリスロマイシンの処方日数が短期間の為、飲み終わっていました。

禁忌だと知らずに飲んでしまった。どうしたらいいの?

基本的に気が付いた時点で医師に相談した方がいいと思います。

全て飲んでしまった場合は、特に症状がなければそれほど気にしなくてもいいと思います。

禁忌薬を服用すると、「ベルソムラ」がどの程度血中濃度が上がるかに関してはデータがない為わかりませんが、2倍から3倍程度になるのではないかと考えられます。

もともと「ベルソムラ」はそれほど強い薬ではないため、短期間血中濃度が2倍になってしまったとしても大きな問題ではないと思います。

デエビゴには禁忌はないのか?

「ベルソムラ」と異なり、禁忌薬はありません。

しかしながら「ベルソムラ」と類似の薬が併用注意に上がってきているので、効果が強く感じる場合は注意した方がいいでしょう。

後発品(ジェネリック医薬品)は出ているか?

まだ販売してから10年も経っていないため、特許が切れておらず、後発品は販売していません。

もちろん市販では販売していません。

睡眠が良くとれるようになる工夫(生活習慣や食事)

出典:いらすとや

エーザイの患者向け資材 【眠りの為の12ポイント】参考に作成しました。

生活習慣の工夫

  • 定時の離床
  • 朝方の日光浴
  • 午睡の制限
  • 就寝前の過剰な水分摂取を控える
  • 寝る前のアルコールの制限
  • 寝る前のコーヒー、紅茶、緑茶などカフェインの含まれるものの制限
  • ニコチンの制限
  • 静かな就寝環境
  • 寝る前のブルーライト

寝る前のアルコール、カフェイン、ブルーライトには控えましょう

特にアルコールを入眠剤代わりに飲んでいる場合は注意が必要です。

薬剤との相互作用のみならず、アルコール自体に睡眠を浅くする作用、利尿作用がある為、夜中に起きやすくなってしまい、睡眠の質を下げてしまいます。

カフェインも同様に利尿作用があるので注意が必要です。

テレビやパソコン作業によるブルーライトの影響で頭が朝だと勘違いしてしまうことがある為、寝る直前までこれらの作業をすることはお勧めできません。

お風呂も効果的に使いましょう

ぬるめのお湯(38~40℃)にゆっくりつかると血行が良くなり、心身ともにリラックスできます。

入浴後にだるいと感じるくらいが程よい加減です。しばらくすると眠気を催します。

就寝1時間前くらいの入浴がおすすめです。

就寝直前に熱い風呂に入ると疲れがとれた感じがしますが、目がさえて眠りにくくなることがあります。

手浴や足浴でも効果があると言われています。

朝日を浴びて生活リズムをリセット

起きたときから1日のリズムを作ることが大切です。

寝室のカーテンを開けて日光を入れたり、ひなたぼっこをするなど、20~30分間朝日を浴びて体を目覚めさせましょう。

日中に適度な運動をして、身体も心もリフレッシュさせましょう

自分のペースで構わないので、体調のいい日は散歩を習慣にしてみましょう。

昼夜のメリハリをつけるのが重要です。

眠くないときは無理に寝ようとしなくても大丈夫です

眠くないときは無理に布団に入らず、いったん部屋を明るくして本を読んだりして夜を楽しむようにしましょう。

楽しんでいるうちに緊張がとけ、リラックスして眠くなってくるものです。

眠くないのに布団に入って症投資、眠ろうとすると、焦って緊張してしまい、余計に眠れなくなります。

睡眠時間は8時間必要ない?

若い人の睡眠時間は7時間程度であり、年齢とともに短くなり、65歳以上になると6時間程度となります。

年齢に見合った生理的睡眠時間を超えて長く床に就いていると、睡眠の質が全体に浅くなり、夜中に目が覚めてしまう時間が増えてしまうようです。

食事にも一工夫を

  • ごま
  • 豆類(豆腐、納豆等含む)
  • ナッツ
  • 乳製品
  • バナナ

などをバランスよくとるのがおすすめのようです。

また、食べ物の消化には2~3時間を要するため、寝る2~3時間前からは重い食事や高カロリーのものは避けましょう。

まとめ

結論として、ベルソムラ、デエビゴは安全性の高い眠剤と言っていいと思います。

かばこ
かばこ

ただし、新聞等で「危険な眠剤」と騒がれている一般的な眠剤(ベンゾジアゼピン系という)とは種類が異なります。

依存性や筋弛緩作用のほとんどない、安全な薬です。

しかし飲み方には少し注意(併用禁忌や食事の影響、連日服用推奨など)をしながら服用を継続していってください。

 

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