乳がんのホルモン療法で骨密度が低下するって本当?どのくらい低下する?

外科の処方で骨粗鬆症の治療をおこなっているのをお薬手帳などでみたことはないでしょうか?

整形外科やリウマチ科ではないのに、なぜ骨粗鬆症の治療をおこなっているのでしょうか?

乳がんの治療でおこなわれるホルモン療法で骨密度が低下する可能性が指摘されているからです。

しかしすべてのホルモン療法で骨密度が低下するわけではありません。

アナストロゾールなどのアロマターゼ阻害薬で主に骨密度低下が報告されています。

この記事ではアロマターゼ阻害薬がどのくらい骨密度に影響をあたえるのか、骨密度低下への対策として推奨されている薬、されない薬に関してさまざまな資料を参考にまとめました。

この記事でわかること
  • なぜアロマターゼ阻害薬で骨密度が低下するのか
  • アロマターゼ阻害薬でどのくらい骨密度が低下するのか
  • 骨密度低下対策としてどのような薬剤を選択することが推奨されているのか
目次

骨密度を低下させる可能性のあるホルモン療法治療薬とは

乳がんに対するホルモン療法で用いられる治療薬は、タモキシフェン、LH-RHアゴニスト(ゴセレリン、リュープロレリン)、アロマターゼ阻害薬(レトロゾール、アナストロゾール、エクセメスタン)などが用いられます。

どの薬がとくに骨粗鬆症に注意が必要なのか、詳しく見ていきましょう!

アナストロゾールなどのアロマターゼ阻害薬は注意が必要!

以下にそれぞれの薬に関して、『骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015』に報告されている骨折リスクに関してまとめました。

薬剤名報告されている骨折リスク
タモキシフェン閉経後女性では骨保護作用あり。閉経前女性では骨密度を低下させる。
骨折を増加、または減少させるデータはない。
ゴセレリン(LH-RHアゴニスト)ゴセレリン単独投与2年間で5%の骨密度低下がみられるが、治療終了後1年間で1.5%回復する。
骨折を増加させるデータはない。
アナストロゾール(アロマターゼ阻害薬)著名なエストロゲン濃度低下をきたすため骨密度低下、骨粗鬆症の発症をきたす。
5年間の投与で腰椎6.1%、大腿骨7.2%の骨密度低下をきたし、骨折発症率は5.9%であった。
『骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015』を基に作成

上記の表からも、特にアナストロゾールなどのアロマターゼ阻害剤は骨粗鬆症に注意が必要なことがわかります。

アナストロゾール以外のアロマターゼ阻害薬の骨密度低下への影響は?

アロマターゼ阻害薬は、アナストロゾール(先発品:アリミデックス)、レトロゾール(先発品:フェマーラ)、エキセメスタン(先発品:アロマシン)の成分としては3種類が発売されています。

レトロゾール(先発品:フェマーラ)に関しては添付文書に骨粗鬆症や骨折に関しての注意喚起があるとともに、以下のような研究が報告されています。

ビスホスホネートの経静脈投与については,術後療法としてレトロゾールを内服する1,065人の早期乳癌患者に対し,内服開始と同時にゾレドロン酸を投与する群(immediate群)と,骨塩量減少(T-scoreで-2.0以下)もしくは骨折イベントが起こってから投与する群(delayed群)を比較するZO-FAST試験が行われ,投与後36カ月時点での腰椎骨塩量がimmediate群は4.39%増加したのに対してdelayed群では4.9%減少し,有意な差を認めた(p<0.0001)。ただし,骨折の発生率に有意差はなかった。

Efficacy of zoledronic acid in postmenopausal women with early breast cancer receiving adjuvant letrozole: 36-month results of the ZO-FAST Study|Ann Oncol. 2010;21(11)

インタビューフォームにおいて報告されている閉経後乳癌患者を対象とした特定使用成績調査(長期投与時の調査:DJP01)においては、1602件中、骨密度減少は15件、骨折2件と非常に低い数値となっています。

定期的な血液検査や薬物フォローをおこなえば、発症率をかなり低下させられることがわかります。




エキセメスタン(先発品:アロマシン)に関しても、添付文書に骨粗鬆症や骨折に関しての注意喚起があります。

しかしエキセメスタンに関しては、骨粗鬆症の頻度がプラセボ群と比較して変化がなかったとする研究報告もあります。

かばこ

アナストロゾールほどの研究データはないものの、同じ作用機序である以上、レトロゾールエキセメスタンなども同様に骨粗鬆症に関して注意したほうがよさそうです。

アロマターゼ阻害薬を内服している場合に気をつけたいこと

骨密度低下は急速に進むわけではないため、注意して検査や症状を観察していれば防ぐことが可能です。

以下に注意点をまとめました。

  • 治療前・治療開始後も骨密度を定期的に測定しましょう。年に1度は骨密度の測定をしましょう。
  • 痛みや関節のこわばりを感じたときには主治医に相談しましょう。
  • 日頃より骨粗鬆症を防ぐためにカルシウムやビタミンD/ビタミンKの摂取を心がけるとともに適度に体を動かしましょう。

ホルモン療法での骨密度に対する対処方法とは?

乳がん治療に伴う骨障害の対応に関しては米国臨床腫瘍学会(ASCO)のガイドラインにおいて以下の記載があります。

  • まずは適度な運動とカルシウムおよびビタミンDを摂取することが推奨される
  • 骨密度を1年ごとに測定し、Tスコアが<-2.5になったら骨粗鬆症の治療を開始すべき
  • アナストロゾール阻害薬に関する骨代謝障害については骨密度だけでなく骨折リスクも考慮して早めにビスホスホネート薬を使用すべき

骨折の危険因子とは?

世界保健機関(WHO)は2004年に12個の骨折危険因子からなる骨折リスク評価を提唱しています。

ホルモン療法だけでなく、以下の危険因子がある場合は、骨折に対する注意がより必要です。

骨折危険因子
  1. 高齢であること
  2. 女性であること
  3. 体重が重い
  4. 身長の低下
  5. 骨折の経験がある
  6. 両親に大腿骨(太もも部分の骨)近位部(体の側)骨折の経験がある
  7. 現在喫煙している
  8. ステロイド剤を使用している
  9. 関節リウマチにかかっている
  10. 続発性骨粗鬆症(ステロイドの使用に伴う骨粗鬆症など)がある
  11. アルコールを多量に摂取する傾向にある
  12. 大腿骨近位部位の骨密度が低い

参考資料

ホルモン療法による骨密度低下に対して推奨されている薬と避けるべき薬

前述したように、アナストロゾール阻害薬を長期で使用する場合に骨密度低下や骨折リスクを考慮する必要があります。

ではどのような薬が骨密度低下対策として推奨されているのでしょうか?

骨密度低下にはビスホスホネート製剤が推奨されている

『骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015』の報告によると、アナストロゾール阻害薬の骨量減少に対して、ゾレドロン酸、リセドロネート、イバンドロネートによる改善が報告されています。

アナストロゾール阻害薬治療中患者におけるビスホスホネート製剤の有効性に関するメタアナリシスでは、ゾレドロン酸、経口ビスホスホネート、デノスマブ投与によって有意に骨密度が改善されています。

骨折リスクに関しては、AZURE試験、メタアナリシスではゾレドロン酸が骨折リスクを低下させることが報告されていますが、デノスマブに関しては骨折リスク低下の報告はありません。

ラロキシフェンとの併用は要注意!

ラロキシフェンは選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)と呼ばれ、骨においてはエストロゲン受容体に結合後、エストロゲンと同様な骨吸収抑制作用を示し、閉経後骨粗鬆症治療薬として知られている薬です。

ATAC試験において、同様のSERMであるタモキシフェンアナストロゾールの併用で有害事象の増加と乳癌再発抑制効果阻害の可能性が示されています。

そのため、アロマターゼ阻害薬使用時のラロキシフェン併用は避けたほうがよいと考えられています。

まとめ

アロマターゼ阻害薬の骨密度低下に関しては、なんとなくは知っていたのですが、どのくらい低下させるのか、薬による違いはあるのかなどが以前から気になっていたため調べてみました。

骨粗鬆症の薬は、近年整形外科やリウマチ科だけでなく、普通の内科などでも処方されるケースが増えてきているため、重複して処方されていないかなどの確認が欠かせません。

外科などでもアロマターゼ阻害薬に伴う骨粗鬆症の治療をおこなっているケースがあるため、漏れなく確認をおこないたいですね!

この記事がほかの方にとっても参考になれば幸いです。

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