先日、とても要求レベルが高く、戸惑ったトラブルがありました。
この一件に関してはこちらの対応に不備はなかったと思っているのですが、いろいろ考えさせられるトラブルだったため、ほかの人にも共有させていただきたく記事にしてみました。
- どこまで薬剤師の責任なのか気になったことがある人
- ほかの医療従事者に理不尽な要求をされたことがある人
トラブルの背景と患者さんの情報
トラブルの背景や患者さんの情報に関してまとめてみました。
どのような患者さんだったか
80歳の男性の患者さんで、いつもこちらの薬局を利用してくれている患者さんでした。
温厚な患者さんですが、高齢でもともと声も小さく、あまり治療内容など詳しいことは聞いてもあまり返答がないような患者さんです。
この患者さんを今後はAさんと呼ぶことにします。
色々治療内容を自分でも把握していて、話してくれる患者さんであればよいのですが、お薬手帳の内容と、心房細動で入院していたことを把握するのが精いっぱいの状況でした。
検査値からはBNPの上昇はありましたが、それ以外の目立った情報を得る事は出来ませんでした。
今回の処方は退院時の処方と同じとAさんから申告あり
こちらの薬局をご利用は2ヶ月ぶりで、前回は体調が悪いとのことでいつもの薬【フレカイニド(抗不整脈薬)、アトルバスタチン(高脂血症治療薬)、イグザレルト(血液サラサラ)、ビソプロロール(抗不整脈薬)】の処方はなく、追加薬【フロセミド(利尿剤)とアムロジピン(降圧剤)】のみを処方してもらったような形の処方でした。
今回の処方は前回(2か月前)、前々回(3か月前)との内容が多少変わっている処方ではありましたが、心臓関係の薬(前回の追加薬(利尿剤と降圧薬)と以前から使用のビソプロロール、新たに咳症状に対してデキストロメトロファン)が処方されていました。
循環器内科として不自然な処方ではなかったこと、医師からも「退院時の処方と同じものを出す」と聞いているとAさんからの申告もあり、お薬手帳を確認し、全く同じであることを確認して調剤しました。
お薬手帳にはデキストロメトロファンが追加になったことがメモとして記載してあるだけでした。
また、定期薬の処方は、こちらの調剤歴では既に1ヶ月以上前に飲み切っていることになっており、継続を判断するのは困難な状況でした。(前々回(3か月前)に2ヶ月分処方)
時系列で簡単にまとめると以下のような状態です↓
- 前々回:定期処方(3か月前):フレカイニド、アトルバスタチン、イグザレルト、ビソプロロールを2ヶ月分処方
- 前回 (2か月前):フロセミド、アムロジピンのみ処方。医師から定期薬に1ヶ月分追加して服用するように指示あり。その後1ヶ月間、心房細動により緊急入院。入院中、退院時に処方あったが今回処方と同内容。
- 今回処方:フロセミド、アムロジピン、ビソプロロール、デキストロメトロファンを処方。退院時、入院中の処方薬と同じ内容。医師からも退院時と同じ処方を出すと説明アリ。お薬手帳にも詳しい記載はなし。
患者さんに対して薬剤師のとった対応
前回、前々回こちらで調剤した内容と、今回処方が同じ内容というわけではなかったため、医師からどのような説明を受けているか確認し、お薬手帳を確認しました。
お薬手帳の内容を見せながら、退院時と同じ薬でいいか、入院の理由を確認しました。
心臓の薬が全く出ていなければ違和感を感じたと思いますが、ビソプロロール、降圧薬、利尿剤は処方が出ていました。
イグザレルト、アトルバスタチン、フレカイニドは薬の服用歴が切れてから1ヶ月以上経っていたこと、入院時も処方が出ていなかったことから、あまり違和感を感じず、疑義紹介を行いませんでした。
循環器内科の処置で、アブレーションなどが行われるケースでは抗不整脈薬や高脂血症治療薬はなくなるケースもあり、イグザレルトも少ないケースではありますが、処方がなくなるケースも見たことがあったため、そこまで疑問にも思いませんでした。
高齢の為、脳出血や眼底出血を起こして中止になったり、減量になったりする可能性もあり、どのような事が入院中に起きているかを把握できない薬局では、それ以上の考察は困難でした。
看護婦さんから薬局にお怒りの電話が来た
Aさんが帰宅後に薬を出してみたが、足りないと訴えているとのこと。
薬局で何か聞かれた気がするが、はっきりと覚えていないと病院側に訴えがあったようでした。
どうやら先生が処方薬を出し忘れたらしい。
どうやらAさんは残薬を1ヶ月分持っていたようで、入院中はその薬を飲んでいてずっと定期薬は継続していたようです。
ビソプロロールのみ、先に手持ちがなくなったため、入院中も処方していたとのこと。
カルテにはそのことの記載があり、本日はその定期薬もなくなったため、全ての薬を処方する必要があったというのです。
看護婦さんから理不尽な要求!なぜ疑義紹介をかけなかったのか責められる
何故か、処方内容に疑問を感じずに疑義紹介をかけなかった薬局が、責められました。
他の医療従事者は知っているかどうかわかりませんが、カルテの情報は基本的に薬局の薬剤師は確認することが出来ません。
残薬があるなんて情報も、定期薬を続けていたなんて情報も、どんな処置が院内で行われていたのかもわからない状態で、疑義紹介を行わなかった薬局が悪いということ自体が、かなりの無茶ぶりだと思うのですが、看護婦さんは非常に怒っていました。
イグザレルトは途中でなくなったりする薬ではないですよね!?
看護婦さんから言われたのは、「イグザレルトは途中でなくなったりするような薬ではないのに見抜けなかったのですか?疑義紹介をしてくれればこんなことにはならなかったのに。
患者さんはもう一度病院に来ることになったのですよ」という事でした。
確かにイグザレルトは一般的には一度始めたらあまり中止にはならない薬です。
ただ、まったくなくならない薬ではないため判断が非常に難しいです。
脳出血、その他出血関係の副作用が原因で一度中止したり、アブレーションの後に状態がいい人で薬がなくなった方もいました。
どう考えてもこれだけの情報で、こちらの知識不足を、上から目線でお怒り気味で指摘されても納得できませんし、こちらのミスではないと思います。
しかしあとで調べてみて、もう少し疑問を持ってもよかったかなと思う面もありました。
どうやらイグザレルトはアブレーションをした後も最低3カ月は続けるものらしい。
【抗凝固薬は中止できますか?】
「アブレーション後に抗凝固薬を中止できますか」と質問されることがよくあります。アブレーション治療は非常に効果的とはいえ、まだまだ完璧な治療ではありません。
心臓の中に血栓をつくりやすくする因子(高血圧、糖尿病、高齢者、心不全、脳梗塞の既往)を2つ以上お持ちの方は、心房細動が再発したときに脳梗塞を起こす危険性があるため、心房細動が停止している場合も、抗凝固薬を継続した方が望ましいかもしれません。特に心房細動のときに症状がない方は要注意です。
逆に、血栓をつくりやすくする因子がまったくない方ではアブレーションの治療成績が良好で、しかも左心房の拡大のない(心房の傷害の少ない)発作性心房細動の方では、手術後3か月以降の抗凝固療法を中止することも検討します。いずれにせよ、アブレーション治療後も定期的な心電図検査や、検脈、生活習慣病の管理はとても重要なのです。
「知っておきたい循環器病のあれこれ 140」
血液サラサラの薬(イグザレルトを含む)がなくなっている人は、今までの処方例を振り返ってみても、若い人やほかに既往歴がない人がほとんどでした。
今回のケースではAさんが高齢であること、高脂血症治療薬や高血圧治療薬を飲んでいることを考えると、血液サラサラの薬をやめられる患者さんでないことはこの記事からわかります。
そう考えると、今回脳出血を起こしたか副作用を起こしてイグザレルトが中止になったのかどうか、他の代替薬はなくてよかったのか確認をとっても良かったのかもしれません。
とはいえども、投薬の短時間に、ここまで色々考察して、患者さんからこの情報を引き出すのは容易ではないですが…。
血液サラサラの薬が使えない心房細動の人にはこんな治療法もあるらしい。
因みに脳出血を起こすリスクが高い方ため、血液サラサラの薬が使えないが、心房細動を起こしやすい人はこんな処置をすることもあるようです↓
【脳梗塞予防の新治療法「経カテーテル的左心耳閉鎖システム」】
「知っておきたい循環器病のあれこれ 140」
心房細動が持続した時にできる血栓の90%以上は左心房の左心耳という部分にできることが知られています。
脳梗塞を起こす危険性の高い方では、抗凝固薬を内服する必要がありますが、中には出血する危険性が高く、長期的に抗凝固薬を内服するのが難しい方もおられます。
これまで脳梗塞を起こす危険性の高い方や、出血のため抗凝固薬の内服が難しい方には、胸を開ける(開心術)か、もしくは胸に小さな穴をあけて胸腔鏡を入れ、血栓ができやすい左心耳を切除するか、閉じる方法がありましたが、いずれも体への負担が大きい治療でした。
2019年9月からわが国でも保険適用となった「経カテーテル的左心耳閉鎖システムは、開心術の必要がなく、足の付け根の静脈から細い管を通して、左心耳を器具で閉鎖する新治療法です。
血栓のできやすい左心耳を閉鎖するため、脳梗塞の危険性を低くし、抗凝固薬の服用を中止することができます。他の病気により出血の危険性が高く抗凝固薬の長期の服用が難しい方にとって、大きな福音となる可能性があります。
図や写真も本記事には載っており、とても勉強になったので、興味のある方はぜひ目を通してみてください。
患者さん向けのためとても分かりやすく書いてあります。
薬剤師はどこまでの医療知識が求められる?処方箋だけを頼りにどこまで気が付けるか
ただ、上記のような知識はかなり専門性が高く、循環器内科の専門医であれば当然の知識なのかもしれませんが、薬剤師にここまでの知識を把握していて当然と言われると、ちょっと釈然としない部分があります。
ほかの薬剤師にも聞いてみましたが、これを発見して、疑義紹介につなげるのはかなり困難であるとの回答でした。
ほかの医療従事者は薬剤師は薬に関して何でも知っていると思っている
ほかの医療従事者は薬剤師は薬に関してもは何でも知っていると思っているようです。
大変ありがたいことなのですが、正直なところ、薬の副作用、相互作用、飲み方などに関しては詳しい自信がありますが、術後にどのタイミングで薬を切るか、どのような病態、どのような術後であればこの薬を使うか等の診断、処置に限りなく近い部分の薬の使い方はなかなか把握しきれていません。
新しい手術の方法などの情報も、把握する手段が限られている状況です。
適応外処方などの添付文書に載っていない使用方法は、本当に手探りで情報収集を日々している状況です。
薬剤師にもさまざまな情報を公開して欲しい
医師向けのガイドラインは、最新版はだいたい有料で確認することすらできないため、古いものをネットで閲覧するのがせいぜいです。
最新の論文も有料なのでなかなか確認できません。
医師の処方に疑問を感じても、副作用や飲み合わせが悪い等よほど疑問を感じない限りは、患者さんから「医師がこの薬は効果があるから出すと言っていた」と言われると、論文に載っていたのかな?新しい適応外処方かな?と思いながら調剤せざる負えないのが現状です。
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