湿布なら妊娠中でも安心して使用できるのでは?と考えている人も多いでしょう。
薬剤師である私自身ですら、つい先日までそう思っていました。
先日、妊婦に湿布薬が処方されたのをきっかけに色々調べてみた結果、じつは身近な湿布薬で禁忌のものがあることがわかり、勉強不足にヒヤッとしたため、調べたことを記事にまとめました。
妊婦さんはうちのクリニックの職員さんです。
そのため、じっくり調べる時間がありました。
普通の薬局や病院では、あまり妊婦さんに薬を調剤する機会が少ないため、見落としがちです。
ほかの薬剤師や、妊娠中の方にとっても役立つ情報をまとめましたので、よければ最後までご覧ください!
- 禁忌である湿布薬
- なぜケトプロフェンテープ(モーラステープ)は妊婦に禁忌になったのか
- ケトプロフェンテープ(モーラステープ)はどのくらい血中に入る?飲み薬との比較は?
- 禁忌ではない湿布薬は安全?
- 安全性の高い湿布薬は?
- 市販の湿布薬も大丈夫?
ケトプロフェンテープ(商品名:モーラステープ)は妊娠後期の妊婦に禁忌!?
妊娠後期とは妊娠28週~生まれるまでの時期です。
薬局でもケトプロフェンテープ(商品名:モーラステープ)は頻繁に処方がでる貼り薬で、ほかの貼り薬より目立って強いイメージもありませんでした。
この貼り薬が禁忌になっているということは、ほかの貼り薬も気をつけたほうがよいということなんだな…というのが最初に感じた感想です。
ケトプロフェンテープ(商品名:モーラステープ)とは
ケトプロフェンテープ(商品名:モーラステープ)とは、主成分がケトプロフェンで、20mgと40mgの規格がある、消炎鎮痛作用のある貼り薬です。
適応は以下に様なものになっています。
- 腰痛症(筋・筋膜性腰痛症、変形性脊椎症、椎間板症、腰椎捻挫)
- 変形性関節症
- 肩関節周囲炎
- 腱・腱鞘炎
- 腱周囲炎
- 上腕骨上顆炎(テニス肘等)
- 筋肉痛
- 外傷後の腫脹・疼痛
- 関節リウマチにおける関節局所の鎮痛
禁忌事項に以下のような記載があります。
【禁忌】(次の患者には使用しないこと)
モーラステープL40mg添付文書より抜粋
(1)本剤又は本剤の成分に対して過敏症の既往歴のある患者
(「重要な基本的注意」の項(1)参照)
(2)アスピリン喘息(非ステロイド性消炎鎮痛剤等による喘息発作の誘発)又はその既往歴のある患者[喘息発作を誘発するおそれがある。]
(3)チアプロフェン酸、スプロフェン、フェノフィブラート並びにオキシベンゾン及びオクトクリレンを含有する製品(サンスクリーン、香水等 )に対して過敏症の既往歴のある患者
[これらの成分に対して過敏症の既往歴のある患者では、本剤に対しても過敏症を示すおそれがある。1)]
(4)光線過敏症の既往歴のある患者[光線過敏症を誘発するおそれがある。]
(5)妊娠後期の女性(「妊婦、産婦、授乳婦等への投与」の項参照)
胎児にどんな影響があるのか?
飲み薬、注射、座薬のアセトアミノフェン以外の消炎鎮痛剤は、妊娠後期はかなり前から禁忌になっている
既に飲み薬の消炎鎮痛剤は、アセトアミノフェン(商品名:カロナールなど)以外のNSAIDs(代表的なもの:ロキソニン、イブプロフェン、ボルタレン、セレコックスなど)は妊娠後期に禁忌になっています。
これは有名なので知っている方も多いでしょう。
ケトプロフェンテープ(商品名:モーラステープ)が禁忌になった経緯
ケトプロフェンテープ(商品名:モーラステープ)は、2014年(平成26年)4月から禁忌となりました。
なぜ禁忌になったか経緯を簡単に表にまとめてみました。
時期 | 製造業者 | 医薬品医療機器総合機構(PMDA) | 厚生労働省 |
平成20年12月 | 妊娠後期の女性が多数枚を連続して使用し、胎児に動脈管収縮が起きた国内症例が集積したことから、添付文書を改訂し、妊娠後期の女性には慎重に使用するよう注意喚起をおこなった | ||
平成23年11月 | 更なる国内症例が報告されたことに伴い、ケトプロフェンのテープ剤を妊娠後期に多数枚を連続して使用しないよう医療従事者向け資材の配布による注意喚起をおこなった | ||
平成26年3月25日 | 添付文書を禁忌に改訂 | 更なる症例の報告、ほかの剤型が禁忌となっていること、通常量でも症例が出ていることからケトプロフェン製剤は禁忌とするよう指示 | 妊娠中期においても、羊水過少症の症例があがっているため、必要最小限にとどめるように注意喚起をおこなった |
常用量でも胎児に影響が出た事例が
平成7年から平成26年までに、妊娠後期における胎児動脈管収縮関連の副作用症例が4例、妊娠中期における羊水過少症の副作用症例が1例報告されています。
ほかの事例は使い過ぎによるものでしたが、常用量でも胎児に影響が出てしまったので、禁忌にせざる負えなくなったのですね。
どの事例も出産後、こどもは回復、軽快したようです。
飲み薬と貼り薬の血中濃度はどのくらい違うの?
湿布はどのくらい血液中に薬が入るのでしょうか?
モーラステープ20mgと、ケトプロフェンの徐放性カプセル(以前はメナミンSRとして販売。現在は販売中止)のデータを参考として掲載します。
モーラステープ20mgを健康成人男子6名へ24時間単回貼付におけるデータです。
貼付枚数 | Cmax | Tmax | AUC |
1枚 | 135.85±18.02ng/mL | 12.67±1.61hr | 2447.83±198.67ng・hr/mL |
8枚 | 919.04±60.36ng/mL | 13.33±2.23hr | 18209.98±962.52ng・hr/mL |
徐放性カプセル剤のデータです(被験者の詳細は不明)。
製剤 | Cmax | Tmax | AUC |
150mg単回(n=8) | 2383±294ng/mL | 4.8±0.4hr | 25170±2120ng・hr/mL |
150mg反復(n=8) | 1713±195ng/mL | 5.6±0.6hr | 20630±2630ng・hr/mL |
モーラスパップXRインタビューフォームを参考に作成
AUCは身体の薬剤に対する総暴露量ともいわれ、体の中(血液中)に入った薬剤の量をあらわしています。
このデータから、ケトプロフェンテープ(商品名:モーラステープ)20mg 8枚とケトプロフェン150mg含有経口薬(標準的な1日量)は同等であると考えられます。
調べてみて驚きました。湿布は飲み薬の1/8くらいは体に薬剤が入るのですね。
ケトプロフェンテープ(モーラステープ)40mgならば、4枚貼ったら飲み薬と同等です。
妊婦のみならず、腎機能の落ちている高齢者も注意した方がよさそうです。
貼り薬以外も禁忌になっていることに注意を!
ケトプロフェンにはモーラスバップ、エパテック(ゲル、ローション、クリーム)、セクター(ゲル、ローション、クリーム)、ミルタックスバップなどの製剤が販売されています。
ほかにもある!妊娠後期の妊婦に禁忌の湿布薬
ロコアテープとジクトルテープは飲み薬の消炎鎮痛薬と同じくらいの強さがあるので、禁忌になるのは想像に難くないでしょう。
これらの薬は、薬剤師であれば、知らなくても怪しいと思って調べる人も多いと思います。
妊婦に禁忌!?ロコアテープとは?
ロコアテープとは、エスフルルビプロフェンを主成分とする消炎鎮痛薬の湿布です。
2禁忌(次の患者には投与しないこと)
2.1 消化性潰瘍のある患者[プロスタグランジン合成阻害作用による胃粘膜防御能の低下により、消化性潰瘍を悪化させるおそれがある。]
2.2 重篤な血液の異常のある患者[血液障害があらわれ、血液の異常を更に悪化させるおそれがある。]
2.3 重篤な肝機能障害のある患者
2.4 重篤な腎機能障害のある患者
2.5 重篤な心機能不全のある患者[プロスタグランジン合成阻害作用による水・ナトリウム貯留が起こり、心機能不全が更に悪化するおそれがある。]
2.6 重篤な高血圧症のある患者[プロスタグランジン合成阻害作用による水・ナトリウム貯留が起こり、血圧を更に上昇させるおそれがある。]
2.7 本剤の成分又はフルルビプロフェンに対し過敏症の既往歴のある患者
2.8 アスピリン喘息(非ステロイド性消炎鎮痛剤等による喘息発作の誘発)又はその既往歴のある患者[喘息発作を誘発するおそれがある。]
2.9 エノキサシン水和物、ロメフロキサシン、ノルフロキサシン、プルリフロキサシンを投与中の患者
2.10 妊娠後期の女性
ロコアテープ 添付文書より参照
妊婦に禁忌!?ジクトルテープとは?
効果の強い湿布として、ロコアテープは認知度が高いですが、ジクトルテープ75mgは比較的新しい薬剤のため、知らない方も多いようなので、紹介します。
1日1回2枚が推奨量で、3枚まで増やすことができます。
2禁忌(次の患者には投与しないこと)
2.1 消化性潰瘍のある患者[消化性潰瘍を悪化させるおそれがある。]
2.2 重篤な血液の異常のある患者[血液の異常を悪化させるおそれがある。]
2.3 重篤な腎機能障害のある患者
2.4 重篤な肝機能障害のある患者
2.5 重篤な高血圧症のある患者
2.6 重篤な心機能不全のある患者
2.7 本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
2.8 アスピリン喘息(非ステロイド性消炎鎮痛剤等により誘発される喘息発作)又はその既往歴のある患者[重症喘息発作を誘発する。]
2.9 妊婦又は妊娠している可能性のある女性
2.10 トリアムテレンを投与中の患者
ジクトルテープ75mg 添付文書より参照
【参考資料】
ほかの湿布薬は安全?市販薬なら問題ない?
ロキソニンテープ(主成分:ロキソプロフェン)やセルタッチバップ(主成分:フェルビナク)、ボルタレンテープ(主成分:ジクロフェナク)などは添付文書に「妊婦に禁忌」の記載はありません。
ただ、妊婦に対する注意喚起はされているため、ケトプロフェンテープ(モーラステープ)同様注意が必要だと考えられます。
市販薬のすべてを調べたわけではないですが、同様であると考えられます。
市販薬でもケトプロフェンが主成分の外用剤や貼り薬がありますので注意しましょう!
例:オミニードケトプロフェンバップ
ほかの湿布薬も、用法用量を守ろう!
私個人の考えではありますが、ケトプロフェンのみが危険な成分というよりは、ケトプロフェンでたまたまデータの集積をおこなっていたため、妊婦への影響が発覚しただけではないかと感じています。
ケトプロフェンテープが著しくロキソニンテープやセルタッチバップに比べて強力な湿布薬であるイメージはとくにありません。
妊婦に安全性が高いといわれている湿布とは?
医療用医薬品では、MS温シップ「タイホウ」とMS冷シップ「タイホウ」が該当します。
まとめ
ケトプロフェンテープ(モーラステープ)が妊婦に禁忌であるというところから、さらになぜ禁忌になったのか、ほかの外用剤は問題ないのかなど、掘り下げて考えてみました。
ほかの薬剤師や妊娠中の方にとって参考になる部分があれば、幸いです。
妊婦、授乳婦の薬に関して知りたい人はこちら↓
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