熟眠感が得られない、配偶者から夜中に呼吸が止まっているといわれた…。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)はどのような病気でしょうか?
また、睡眠薬は睡眠時無呼吸症候群(SAS)に服用しても問題ないのでしょうか?
勤め先の病院で睡眠時無呼吸症候群の簡易検査、入院検査が始まったため、勉強も兼ねて論文や学会のガイドラインをもとに調べてまとめてみました。
- 睡眠時無呼吸症候群(SAS)とは?
- 睡眠薬を使用しても問題ないか
- 睡眠薬を使用しない方がよいといわれている理由
睡眠時無呼吸症候群(SAS)とは?
睡眠時無呼吸症候群(SAS)とはどのような病気で、なぜ問題視されるのでしょうか?
病態から原因、リスクまでを簡単にまとめました。
SASはどのような病気?
睡眠時無呼吸症候群とは、眠っている間に呼吸が何度も止まる無呼吸と、呼吸が止まりかける低呼吸とを繰り返す病気です。
英語の「Sleep Apnea Syndrome」の頭文字から「SAS」と略されています。
睡眠時無呼吸症候群には,口や鼻から肺の入り口である声帯に至る空気の通り道が細くなるために発生する閉塞型、呼吸を調整する脳の働きが低下するために発生する中枢型、これら両方が関係する混合型に分けられます。
通常、睡眠時無呼吸症候群といえば、最も頻度の高い「閉塞性睡眠時無呼吸症候群(Obstractive Sleep Apnea Syndrome:OSAS)」を指します。
日本での潜在患者数は、人口の2~3%(約250万人)ともいわれています。
この病気の方は、以下の症状を呈することが多いようです。
- 周囲の方からいびきを指摘される
- 夜間の睡眠中によく目が覚める(息苦しくなって目覚めることもある)
- 起床時の頭痛や体のだるさ
- 日中の眠気
SASの原因とは?
原因の一つとして肥満が挙げられます。
他にも、首・のどまわりの脂肪沈着や扁桃肥大のほか、舌根(舌の付け根)が大きい、顎が小さいなども原因になることがあります。
SASの診断基準は?
睡眠時無呼吸症候群の診断はESS(エプワース眠気尺度)問診票などを用いた日中の眠気の評価と睡眠障害の検査で診断されます。
睡眠障害の検査には簡易検査(アプノモニター)と脳波を含めた精密検査ポリソムノグラフィー検査 (PSG)があります。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)の重症度はAHIで表され、一晩の睡眠を通して、1時間あたりの無呼吸や、低呼吸の頻度を測定し診断します。
AHIが5回以上認められ、且つ日中の眠気などの自覚症状がある場合はSASと診断されます。
ポリソムノグラフィー検査 (PSG)の場合は結果がでるのに2種間程度かかります。
SASを放置することによるリスクとは?
SASの患者さんは、一晩中「睡眠→無呼吸→覚醒→睡眠」を繰り返すことになり、質のよい睡眠をとることができなくなります。
これらの現象は、患者さん自身には自覚症状がありません。
さらに、眠っている間に低酸素状態を繰り返すことで、すべての臓器が悪影響を受けることになります。
SASはどのような病気と合併しているか
高血圧、高脂血症、糖尿病、心疾患などが合併しているケースが多くあります。
そのため、SASの検査と併せて合併症検査が必要となることもあります。
また、耳鼻科的診察で,のどの奥や顎の形に異常がないか確認することも必要なケースもあります。
その場合、頭部CTやセファログラムという頭部レントゲン検査を行うことがあります。
SASの検査は何科で受けられる?
呼吸器内科がもっとも一般的ですが、循環器内科、糖尿病内科、一般内科などで受けられることもあります。
SASの治療とは?
経鼻的気道持続陽圧療法(CPAP療法)
最も重要な治療法は、経鼻的気道持続陽圧療法です。
これは鼻にマスクをつけ,特殊な機械で圧力をかけて空気を送り込む治療法です。
ご自宅に専用の器械を導入して、その器械につながったマスクを装着して就寝して頂きます。
この圧力によって肺への空気の流れがよくなり,呼吸が止まることがなくなります。
ただし原因を取り除く根本的な治療ではないため、治療を続ける必要があります。
マウスピース
無呼吸症候群の原因の一つに、寝ている時に筋肉がゆるんで重力が加わり、下顎が後方にさがるとともに舌も奥へと入り込み、気道が圧迫されることで起こることがあります。
それを防ぐためにマウスピースが有効になります。
マウスピースは、歯科口腔外科で作成します。
外科的手術
手術方法は原因によって様々ですが、扁桃やアデノイドの肥大によって睡眠時無呼吸症候群(SAS)が引き起こされている場合は、摘出手術が検討されることがあります。
その他の治療法
肥満が原因で睡眠時無呼吸症候群(SAS)を引き起こしている場合は食事療法と運動療法にて治療を行うことがあります。
また、飲酒は筋肉が弛緩するので、飲酒制限を行うこともあります。
他に就寝時に横になることで気道閉塞が起こりにくくなるので、意識するようにしましょう。
参考資料
- 睡眠時無呼吸症候群|済生会
- 睡眠時無呼吸症候群|近畿中央呼吸器センター
- 睡眠時無呼吸症候群(SAS)ガイドライン2020
睡眠時無呼吸症候群(SAS)に睡眠薬は使用可能?
睡眠薬を睡眠時無呼吸症候群(SAS)の人は用いてもよいのでしょうか?
また睡眠時無呼吸検査時に睡眠薬を飲んでもよいのでしょうか?
ポリソムノグラフィー検査 (PSG)や簡易検査の時に睡眠薬は飲んでもいい?
ポリソムノグラフィー検査 (PSG)のメーカーである帝人のMRさんに確認しました。
深夜になっても睡眠がとれない場合は医師の判断のもと、睡眠薬を処方するケースも報告されているようです。
睡眠薬を服用した場合は、イベントとしてメーカーに報告します。
なぜベンゾジアゼピン系睡眠薬はSASに注意が必要なのか?
ベンゾジアゼピン系の睡眠薬は筋弛緩作用があり、この筋弛緩作用によって、首周りの筋肉も弛緩します。
このような理由から、睡眠時無呼吸症候群の患者さんは、ベンゾジアゼピン系睡眠薬の使用はできるだけ避けるべき、と考えられています。
代表的なベンゾジアゼピン系の眠剤を以下にまとめました。
- トリアゾラム(先発品名:ハルシオン)
- リルマザホン(先発品名:リスミー)
- ブロチゾラム(先発品名:レンドルミン)
- フルニトラゼパム(先発品名:サイレース)
SASに禁忌の眠剤もある?
クアゼパム(先発品名:ドラール)のみ、睡眠時無呼吸症候群に禁忌となっています。
2. 禁忌
次の患者には投与しないこと
2.1 本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
2.2 急性閉塞隅角緑内障の患者[眼圧を上昇させるおそれがある。]
2.3 重症筋無力症の患者[重症筋無力症の症状を悪化させるおそれがある。]
2.4 睡眠時無呼吸症候群の患者[呼吸障害を悪化させるおそれがある。]
2.5 リトナビルを投与中の患者[10.1参照]
クアゼパム 添付文書より引用
軽症や中等症のSASであれば睡眠薬を使用してもよい?
これまで睡眠時無呼吸症候群患者さんを対象にして睡眠薬の効果や副作⽤用を調査した研究が数多くあります。
ただし、重症例例ではベンゾジアゼピン系睡眠薬によって睡眠中の呼吸状態が悪化する危険性が示唆されています。
睡眠時無呼吸症候群を十分にコントロールした上で睡眠薬を服⽤することが推奨されています。
安全に使用できる眠剤は?
非ベンゾジアゼピン系の睡眠薬のゾルピデム(先発品名:マイスリー)やエスゾピクロン(先発品名:ルネスタ)などは筋弛緩作用がなく、比較的安全に使用できると考えられています。
メラトニン受容体作動薬のラメルテオン(先発品名:ロゼレム)は、海外での臨床薬理試験において軽度~中等度のSAS患者に使用し、睡眠中の無呼吸低呼吸指数への影響は認められなかった報告があります。
オレキシン受容体拮抗薬であるスボレキサント(先発品名:ベルソムラ)に関しては研究データは少ないものの、軽症から中等症の26名にSAS患者を対象に常用量の2倍である40mgを投与した試験では、影響はごく軽微であったとの報告があります。
参考資料
- 睡眠時無呼吸症候群(SAS)ガイドライン2020
- 睡眠時無呼吸症候群の患者に使用できる睡眠導入薬は何か?|福岡県薬剤師会
- コラム6:安眠を目指して|総合東京病院
- 睡眠薬の適正な使⽤用と休薬のための診療療ガイドライン
- 明日からの臨床に役立つ睡眠薬の基礎知識|睡眠口腔医学
- 睡眠時無呼吸症候群(SAS)検査について|帝人
まとめ
勤め先の病院でSAS検査が導入されることが決まったため、勉強会が何度か開かれました。
眠剤は睡眠時無呼吸症候群によくないと聞いていました。
しかし簡易検査やPSG検査の時は問題ないのか、SASであることが確定したあとも眠剤は処方継続してもよいものなのか、勉強会からはわかりませんでした。
今回は自分自身の勉強のために調べてまとめました。
ほかの方の参考になれば幸いです。
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