モイゼルト軟膏は1日2回使用する、アトピー性皮膚炎の治療薬です。
本日メーカーのWeb勉強会だったため、その話を聞いてなる程と思ったことや、疑問に思ったことをメーカー資料などを調べて薬剤師の視点でまとめてみました。
そもそもPDE4ってなんだったっけ?泌尿器の薬と何が違うんだろう??
↑非常にお恥ずかしいのですが、知識不足で上記のように最初は思ってました(-_-;)
- モイゼルト軟膏とは?
- モイゼルト軟膏の効果や副作用
- モイゼルト軟膏の作用機序
- モイゼルト軟膏はどのくらいで効果が出る?
- モイゼルト軟膏は子供は使用できる?
- PDE4とは?
モイゼルト軟膏とは?作用機序は?
モイゼルト軟膏(一般名:ジファミラスト)は、アトピー性皮膚炎の外用剤の治療薬として大塚製薬株式会社により開発されました。
2021年9月承認、6月1日に発売が決まりました。
規格としては2種類あります。
モイゼルト軟膏の作用機序は?
PDE4は多くの免疫細胞に存在し、cAMPを特異的に分解する働きを持ちます。
PDE4を阻害することにより、炎症細胞の細胞内cAMP濃度を高め、種々のサイトカイン及びケモカインの産生を制御することにより皮膚の炎症を抑制します。
簡単にいうと、PDE4を阻害することで、アトピーなどの炎症を起こす物質が作られるのを防ぐことで炎症をおさえます。
モイゼルト軟膏の副作用は?
長期使用でも全身性の副作用がないことが、この薬の強みになっています。
モイゼルト軟膏はいつ頃効果が出ると考えられるか
添付文書等の資料では、4週程度では確実に効果が出ていることがうかがえます。
モイゼルト軟膏の塗り方
すり込むように塗ると、摩擦で患部が刺激され、炎症が増悪します。
患部を刺激しないように、軟膏をのせるように塗ることが大切です。
ティッシュが皮膚にくっつく程度に塗りましょう。
モイゼルト軟膏の0.3%と1%の使い分けは?
添付文書には以下のように記載されています↓
通常、成人には1%製剤 を1日2回、適量を患部に塗布する。
通常、小児には0.3%製剤を1日2回、適量を患部に塗布する。症状に応じて、1%製剤を1日2回適量を患部に塗布することができる。
出典:モイゼルト軟膏添付文書
そのため、基本的に0.3%は小児用の規格だと思っていいと思います。
大人に対して0.3%の規格で処方が来た場合は、保険請求が通らない可能性もあります。
さらにに添付文書には以下のような記載もあります。↓
小児に1%製剤を使用し、症状が改善した場合は、0.3%製剤への変更を検討すること。
出典:モイゼルト軟膏添付文書
基本的にアトピー性皮膚炎の薬は長期にわたって使用することが多い為、適宜小児の場合は減量できるようにこの規格をメーカーとしては作ったようです。
何歳から子供は使用できる?
モイゼルト軟膏0.3%、1%は生後3ヶ月の赤ちゃんから使用可能です。
1本でどのくらい使用できるか
1本で28FTU分あるとメーカー側は言っています。
FTUは大人の人差し指の先から第一関節まで薬を乗せた量で、1FTU=約0.5gに相当します。
1FTU(約0.5g)は、大人の手のひら2枚分の面積(体表面積の約2%)に相当します。
モイゼルト軟膏の治療上の予想される位置づけは?
モイゼルト軟膏はどのように今後使われていくことが予想されるのでしょうか?
詳しく見ていきましょう!
現在アトピー性皮膚炎で使われている薬
外用剤ではステロイド剤、カルシニューリン阻害剤、ヤスキナーゼ(JAK)阻害剤、今回のホスホジエステラーゼ4(PDE4)阻害剤です。
そのほか内服では抗ヒスタミン、漢方薬、シクロスポリン、ステロイド剤、JAK阻害剤
注射薬ではモノクローナル抗体製剤などがあります。
他剤の問題点とモイゼルト軟膏の特徴
モイゼルト軟膏以外の外用剤の問題点としては…↓
ステロイド外用薬では皮膚委縮,毛細血管拡張,ステロイドざ瘡等の局所副作用が知られており,特に顔面や頚部では長期間連用しないよう注意が必要です。
カルシニューリン阻害剤でも灼熱感や皮膚感染症などの副作用が認められ,しばしば治療上の問題となっています。
さらにカルシニューリン阻害剤では,全身性副作用の懸念から 1 回塗布量に上限が設けられるなど使用上の制約もあります。
また, JAK 阻害剤においても,皮膚感染症等の副作用が認められるとともに,経皮吸収による全身性の影響を考慮して 1 回塗布量の上限が設定されています。(モイゼルトのPMDA提出資料より)
PDE(ホスホジエステラーゼ)4とは?ほかのホスホジエステラーゼとは何が違うの?
同じPDE(ホスホジエステラーゼ)と言っても、ファミリーによって全然作用の違う薬になる事に注意が必要です。
PDE(ホスホジエステラーゼ)は11種類のファミリーがある
詳しい11種類のファミリーに関する論文の一部抜粋↓
環状ヌクレオチドホスホジエステラーゼ(cyclic nucleotide phosphodiestease,以下 PDE と略す)は,細胞内セカンドメッセンジャーである環状ヌクレオチド(cAMP および cGMP)を分解し,そのシグナル伝達を調節している.哺乳類では PDE は 11 種類のファミリーを形成しており,その阻害薬は様々な疾病の治療に使用されている。
出典:(環状ヌクレオチドホスホジエステラーゼ研究の最近の進展:アイソザイム,機能,阻害薬 )日薬理誌(Folia Pharmacol. Jpn.)126,121~127(2005)
カフェインやテオフィリン,ジピリダモールのように非選択的にPDEを阻害するものもありますが、現在は各々のPDEを選択的に阻害する薬が開発され、様々な病気の治療に使われています。
PDE阻害薬はどのような薬がある?具体例は?
PDE3は主に血小板・心臓・血管平滑筋に存在し、PDE3阻害薬であるミルリノンは急性心不全治療薬、シロスタゾール(プレタール)は慢性動脈閉塞症の治療薬です。
PDE4は気管支喘息での薬の開発が検討されていますが、現在今回のアトピー性皮膚炎治療薬のモイゼルトや乾癬治療薬であるオテズラなどが発売されています。
PDE5は血管平滑筋などに存在し、PDE5阻害薬であるシルデナフィル(バイアグラ)は局所血流量を増大させ男性機能障害(ED)、肺高血圧症の治療薬となっています。
そのほかのファミリーに関しては現在まだ薬は開発されていません。
モイゼルト軟膏と飲み薬の乾癬治療薬の「オテズラ(アプレミラスト)」との違いは?
モイゼルト軟膏とオテズラはどちらもPDE4阻害薬です。
モイゼルト軟膏は外用剤として、表皮を通過できる分子量かつ、真皮に到達しつつも血中に入らない油水分配係数をもつ化合物として、初めから研究をスタートさせた薬です。
オテズラとの違いは、経口薬と外用薬の違いももちろんあるのですが、モイゼルト軟膏はPDE4B 選択的阻害作用を有することが大きな違いです。
PDE4には4つのアイソザイムがあり、PDE4B阻害には抗炎症作用が、PDE4D阻害は嘔吐中枢に作用し、嘔吐の原因になります。
実際にPDE4Bと4Dの選択性のないオテズラでは5%以上の悪心などの消化器症状、5%未満の嘔吐などが報告されています。
おわりに
モイゼルト軟膏がどの程度のアトピーに対して効果があるのか(重度のものには効果ない?)はあまり良くわかりませんでした。
ただ、非常に副作用の少ない薬なので、今後他剤との併用で活躍してくれるといいなと思いました。
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