マグコロール(クエン酸マグネシウム)は、大腸X線検査や大腸内視鏡検査前に用いる下剤です。
勤務先クリニックの大腸CT検査でも、前日の処置として、マグコロールを9時までに飲むこととされています。
勤務先は、前日マグコロール+当日ニフレックのセットです。
高齢化の影響で、腎機能の落ちた高齢者に処方されることが増えてきているのですが、添付文書上は「腎障害のある患者には禁忌」としか記載されていません。
そこで、マグコロールと腎障害との関係、マグネシウムの量、高マグネシウム血症などのリスクに関して調べました。
- マグコロールとは?
- マグコロールに含まれるマグネシウムの量
- マグネシウムの量と高マグネシウム血症のリスクの関係
- 高マグネシウム血症と腎機能の関係
- マグコロールはどのくらいの腎障害なら使用を控えるべき?
- マグコロールの代替薬としては?
マグコロール(クエン酸マグネシウム)とは?大腸X線検査や内視鏡検査前に使用する薬?
マグコロールとはどういう薬で、どのくらいマグネシウムが含まれているのでしょうか?
詳しく見ていきましょう!
マグコロールの効果・効能
マグコロールは以下の時に使用する下剤です。
もともと液体のマグコロール内用液と、溶かして使用するマグコロール散が発売されています。
- 大腸検査(X線・内視鏡)前処置における腸管内容物の排除
- 腹部外科手術時における前処置用下剤
高張液と等張液のどちらかで使用するかは、状況に応じて使い分けます。
高張液の使用方法(大腸X線検査、内視鏡検査、腹部外科手術前)
※散剤の場合は、1包(50g)を水に溶かして180mlとします。
朝の検査の前日の夜9時までに服用指示がでることが多いです。
高張液はいちどに180mlすべてを飲んで問題ありません。
いつ頃効果がでるの?
等張液の使用方法(大腸内視鏡検査前)
年齢、症状により適宜増減すことは可能です。
※散剤の場合は、2包(100g)を水に溶かして1,800mlとします。
検査当日に病院に来てから飲むケースが多いです。
必ず数時間に分けて飲んでください。
等張液を一気に流し込むのは危険です。
いつ頃効果がでるの?
マグコロールの副作用
下剤かつこれだけの水を飲む薬なので、ある程度は仕方がないといえるでしょう。
しかし、重大な副作用として挙がっている以下の3つは注意が必要です。
- 腸管穿孔、腸閉塞
- 虚血性大腸炎
- 高マグネシウム血症
気をつけるべき既往の人
添付文書にはさまざまな記載があるのですが、通常時に特に注意したいのが、以下の人です。
- 高齢者
- 腎障害のある人
- 既に酸化マグネシウムの下剤を飲んでいる人
- 大腸、胃などの消化器系の手術歴がある人
- 過去に腸閉塞の疑いや歴がある人
- 高度便秘の人
マグコロールに含まれるマグネシウムの量は?
マグコロール散で考えてみます。
- 高張液:マグコロール散1包34g(本剤50g)では、クエン酸マグネシウムは34g入っており、そのうちマグネシウムは2.7gを占めています。
- 等張液:マグコロール散68g(本剤100g)の場合はこの倍の量である、マグネシウム5.4gが入っています。
マグミット(酸化マグネシウム)330 3錠(約1000mg)中におよそマグネシウムは600mg入っています。
そう考えると、多量のマグネシウムがマグコロールに入っていることがわかるでしょう。
マグコロール散とマグコロール内用液の違いは?
マグコロール内用液は、すでにマグコロールを水に溶かして250mlの商品として販売している高張液です。
以下にマグコロールの種類をまとめました。
商品名 | 内容量 | 高張液?等張液? |
マグコロール散 68%分包 50g(マグコロールPの名称変更品) | 1包50gを溶かして180ml〈高張液〉 もしくは2包100gを溶かして1800ml〈等張液〉とする | 高張液、等張液のどちらも作れる |
マグコロール内用液 | 1包(1本)250ml〈高張液〉 もしくは2包(2本)500mlを溶かして1800ml〈等張液〉とする | 高張液、等張液のどちらも作れる |
マグネシウムの過剰摂取は危険?高マグネシウム血症が起きる?
酸化マグネシウム(マグミット)など、マグネシウムが含まれる下剤は、検査前下剤のマグコロールだけでなく、最もポピュラーな下剤として用いられています。
刺激性の下剤(ラキソベロンやプルゼニド)とは異なり、習慣性がないのがよい点ではありますが、多く服用しすぎると、高マグネシウム血症を起こすリスクも高まります。
どのくらいマグネシウムをとったら危険なのでしょうか?どのような症状がでるのでしょうか?詳しく見ていきましょう!
高マグネシウム血症とは?どのような症状?
高マグネシウム血症の初期の症状は以下のようなものがあります。
- 嘔気、嘔吐
- 筋力低下
- 傾眠
- 全身倦怠感
- 血圧低下
- 徐脈
- 皮膚潮紅
マグネシウムは筋肉の収縮に関わるミネラルです。
高マグネシウム血症は、稀な疾患ではありますが、発症すると呼吸停止、心停止などを引き起こし、重篤な転帰をたどる症例(死亡または死亡の恐れ)が報告されているため、注意が必要です。
危険なマグネシウムの数値は?
血清マグネシウム濃度の正常値は1.8~2.6mg/dLです。
以下に血清濃度ごとの臨床症状をまとめました。
血清マグネシウム濃度(㎎/dl) | 臨床症状 |
5~8 | 悪心、嘔吐、皮膚紅潮、低血圧 |
9~12 | 傾眠、深部腱反射低下 |
12< | 呼吸抑制、麻痺、心停止 |
どのくらいマグネシウムをとると、高マグネシウム血症のリスクが高まる?
腎機能が正常である場合は、最大で1日6g以上の腎排泄が可能であるとされています。
腎障害があると、血症マグネシウムの量が上がる?
どのくらいからeGFRと血清マグネシウム濃度との相関関係がみられるのでしょうか?
近隣の腎臓内科の先生は酸化マグネシウム(マグミット)を処方しないですね…。結構危ないことをご存じなんだと思います。
マグコロール(クエン酸マグネシウム)は、腎障害があったら使用を控えるべき?
腎障害のとらえ方が分かれるところかもしれません。
因みに、腎機能別薬物投与量POCKET BOOK第4版では、マグコロールはeGFR<60から禁忌となっています。
ただ、勤務先のDrも言っていましたが、eGFR<60以下だとかなりの方が該当してしまい、あまり使用できない薬となってしまいます。
代替薬に関しても後述しますが、マグコロールはほかの薬と比べても非常に飲みやすい味の薬です。
前述した長崎大学 薬剤部の論文の結果と併せてみても、45≦eGFRまでは様子をみてもよいのではないかという結論に、勤務先の病院ではなりつつあります。
勤務先の薬剤部では、eGFR<45で疑義紹介することに決めました。
本音としては、前日はすべてラキソベロンに変えたい。
なんだったら、前日なし+当日モビプレップのみに変えてほしい。
長年使いなれたのを変えたくないんだろうけど。
さらにみていきましょう!
腎障害がなくても、マグコロールで高マグネシウム血症がおきることも
小牧市民病院外科で2019年に報告された症例をを紹介します。
パーキンソン病を持つ66歳の女性で、腎機能は正常であるものの、パーキンソン病をもっているため、便秘になりやすく、既に下剤を服用中でした。
しかしマグコロール服用後に腸閉塞をおこしたことで急速に高マグネシウム血症になり、肺炎、人工肛門など、非常に重篤な転帰をたどっています。
国内でほかにもあがってきている症例を紹介します。
1989年以降に国内でマグコロールでおきた高マグネシウム血症の症例は10例で、3例が死亡しています。
さらに10例のうち腎障害のあったものは3例ほどで、残りの7例は正常でした。
多くは75歳以上、消化管閉塞、虚血性腸炎、便器など消化管病変や消化器症状を持っていたことが報告されています。
参考資料:腎機能別薬物投与量POCKET BOOK第4版
腎機能に対する薬の用量を調べる際に、とても重宝する本です。
Drで持っている方も多いです。
マグコロール(クエン酸マグネシウム)の代替薬とは?
腎障害があるから、マグコロールはやめたほうがよさそうだ…。
でも代替薬は何を提案したらよいか迷いますよね?
マグコロールは検査前日でも、検査当日でも使用することができる薬です。
どちらの用途で使用しているかで、代替薬の提案が変わってきますので、注意しましょう。
検査前日+検査当日のダブルの下剤か、前日まで消化に良い食べ物+当日下剤のみの場合があります。
大腸検査当日に使用される、ほかの下剤に関して以下にまとめました。
下剤の種類 | 洗浄力 | 味 | 服用量 |
マグコロール | △ | 〇(スポーツドリンク) | 1.8L |
ニフレック | 〇 | △(塩味) | 2L |
モビプレップ | ◎ | 〇(梅味) | 1.5L+水750ml |
ピコプレップ | △ | ◎(オレンジ味) | 300ml+水2L |
ビシクリア(錠剤) | 〇 | なし | 50錠+水2L |
モビプレップ以外は、よほど消化に良いものを食べてもらわないと、前日に下剤をいれないと残渣が残ってしまうかもしれないですね…。
プルゼニド(主成分:センノシド)検査前日
プルゼニド(主成分:センノシド)は、大腸刺激性の下剤です。
ただ、2Tだと、高度の便秘の方には効きめが弱いかもしれないです。
ラキソベロン(主成分:ピコスルファート)検査前日
ラキソベロン(主成分:ピコスルファート)は大腸刺激性の下剤です。
ラキソベロンは1本10mlなので、前日の夜に1本から2本飲むことになります。
これって結構多い量なのでは?と心配になったため、更に調べてみました。
ラキソベロン1本はプルゼニドに換算するとどのくらい?
ラキソベロン内用液6滴≒プルゼニド1錠とされています。ラキソベロンは10ml、150滴です。
なんか下痢しすぎが心配だな…と思ったら、やっぱり夜中に何度もトイレ通いになるみたいです。
ラキソベロンの味は?
1本飲むとなると、味が気になったので調べてみました。
ラキソベロン内用液は製剤工夫がされています。
実際飲んだ方の口コミを調べると、人工甘味料のような後に残る甘さがあり、粘性があるようです。
ラキソベロン内用液はほかの飲み物にまぜて飲むことが多いです。
飲みにくいといった訴えを聞いたことは、今のところありません。
ニフレック配合内容剤(検査当日)
大量の水溶液が機械的に腸管内を洗浄します。
また、これのみでは便秘の強い方などは前処置が不十分なことがあるという報告もありました。
モビプレップ配合内用液(検査当日)
現在使用している病院が増えている薬です。
味はややすっぱく、濃い目の味(梅味)です。
主成分はナトリウム・カリウム・アスコルビン酸配合剤です。
マグネシウムが含まれていないので、マグコロールよりは使いやすそうです。
ピコプレップ配合内用液(検査当日)
主成分はピコスルファート/ クエン酸マグネシウム配合剤です。
服用量もPEG製剤と比べ少なくて済むのもうれしいです。
腸管洗浄能力が不十分なため検査時間の延長や病変の見逃しにつながると報告されています。
ビシクリア配合錠(検査当日)
無水リン酸水素二ナトリウムを主成分とする経口腸管洗浄剤です。
味がなく、飲みやすいのが最大のメリットですが、合計50錠飲まないといけないのが難点なため、高齢者からの評判はあまりよくないようです。
まとめ
大腸検査前下剤に関してあまり知識がなく、腎障害に注意が必要との情報も先日初めて知りました。
このままではいけないと思い、いろいろ調べました。
検査を正確に行うため、残渣を残してはいけません。
さらに患者さんにとって危険ではない薬の選択をするため、この情報が参考になれば嬉しいです。
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